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年末が差し迫った日の夜、滅多に行かないショッピングモールからの帰り道。
駐車場から、出たかった方面と違う出口から出てしまい、
行きは大通りを走って来たので、そこへ出ようとナビを頼りに走る。
なのに、住宅街を抜け、どんどん田舎道になって行く。
気づけば前にも後ろにも走る車はおらず、私の車1台になっていた。
街灯も減り、これは全然違う方向へ走っているのではないかと、不安が募る。
進行方向も左右も、田んぼが広がるばかりで、後ろを振り返ると、さっきまでいた灯りに包まれた賑やかな街からは、遠く離れていて……
少し走ると前方に車のライトが往来する様が見え、ナビもそちらへ案内するのでホッとして真っ直ぐ進む。
しかし少し先の十字路に、黄色と黒の斜線が入った通行止めバリケード。
その脇で交通誘導員が誘導灯を振って「左方向へ行け」と合図を出している。
仕方なく左折すると、その道路は車1台が走れるほどの道幅。
暗闇の中、見渡す限り田んぼが広がっていて、繁華街からどんどん遠ざかって行く。
何だか先程の誘導員は、実は『狸』で、化かされているのではないかと気味が悪くなる。
そういえば小太りでお腹が出たおじさん……暗かったので顔はよく見えなかった。
馬鹿な……そんな非現実的な事がある訳ない。
普段、妄想ばかりして小説なんか書いてるから、そんな事を考えてしまうんだ……。
暫く走ると、前方にいくつかの小さな灯りが見え、揺れながら近づいて来る。
車や自転車のライト等ではないのが分かると、背中に冷や汗が伝う。
どうしようか……これ以上、進むのは怖い。
でもUターンできるほどの道幅もない。
ブレーキを踏み、その場で前方の灯りを目を凝らして見た。
近づいて来た灯りは、懐中電灯やライトをつけたスマートフォンを片手に歩いて来る家族。
その先の十字路には三脚を立ててカメラを構える若い男性と女性。
その他にも、この近くの住人のような軽装の人達が、空を見ながら歩いて来る。
――これは―――
何かを見に来ている人達だ。
夜の空と言えば……
もしかして花火?
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