I Vibrazione

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I Vibrazione

 エールコレは乗り物の振動が好きな少年だ。  病院と教会からの帰り道、座席の背もたれに体を預けて目を閉じる。細かく揺れ動く車体に集中するためだ。  眠気に誘われても両親が隣にいる。エールコレが寄りかかれば、震える手で頭をなでてくれた。大人は子供よりもずっと手が大きい。物心がついて間もない頃のエールコレは、温かい手を頼もしいと思っていた。  近頃はぬくもりがない。体温は感じられるのに、手のひらを通して負の感情まで伝わってくるようだ。  エールコレはその意味を考えなかった。  考え込むと睡魔に負ける。  降り損ねる心配はない。  親は子供を守ってくれる存在だ。
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