第1話

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第1話

「お父さん!早く起きて!」 「…ふぁ…おはよう。那結菜(なゆな)」 「呑気にしてないで、早くご飯食べて仕事に行きなよ」 「そんな冷たいこと言わないでぇ」 「てかさぁ、早くしないとマジで遅れるよ?」 やっと時計を見る父。 「…………」 無言な父。 表情が変わる。 「なんで起こしてくれなかった!?我が娘よ!」 「何回も起こしたって!10回声掛けて揺すって起きなかったのはお父さんでしょ!?」 「……ごめんない。」 この父親はなんなんだ。 「はい、朝食と昼食お弁当に詰めたから早よ仕事行け!」 「はい!」 玄関まで走る父。 「今日は早く帰って来れそう?」 「どーだろ、努力はするけど……」 「おっけー」 玄関にたどり着く。 「それでは、お気をつけて!」 「はい!」 これがいつもの父と私の会話だ。 私の父は都賀智志(つがともし)。 警察官だ。 警察官のはずなのに、このありさまだ。 時計を見る。 8時05分。 学校へ向かう。 学校は歩いて5分だ。 ああ、そうだ。 名乗り忘れていたが、私の名前は都賀那結菜(つがなゆな)。 小学6年生だ。 あと1年もすれば、小学校を卒業し、中学生になる。 「あ!チャイム鳴る!」 今日はゆっくり歩きすぎた。 私の本分は学業だ。 1日頑張るしかない。 午後4時。 学校が終わった。 家に着き、ランドセルから家の鍵を出す。 「あ、あれ?」 鍵が2つある。 片方の星のキーホルダーが付いている鍵は私の物だ。そして、もう1つはクマのぬいぐるみキーホルダーが付いている。これは、私がお父さんに上げた物だ。 「てことは……はぁ」 別にお父さんが早く帰ってくるなら鍵は私が持っていても構わない。だが、今日は『努力する』と言う言い方をした。つまり、帰りが遅いということだ。帰りが遅ければ、私が寝ているかもしれない。鍵を閉めずに寝るほど無防備ではない。 「届けるかぁ」 家には入らず、お父さんの職場である警察署へ向かう。そこは、歩いて10分程だ。 警察署のドアが開く。 タイミング良く、顔の知っている人が来た。 お父さんの上司の真田良央(まなだいお)さんが私に気づく。 「おっ!那結菜ちゃん!」 「あ!お久しぶりです!真田さん!」 「どうしたの?」 「あ、実は、お父さんが家の鍵を忘れてて、届けに…」 「おお!そうか!優しいねぇ、那結菜ちゃん」 「家に入れなくてもいいんですけどね」 なんて話をしていると、お父さんがエレベーターから走って来た。 (どうしたんだろう?) お父さんもこちらに気づいたようだ。 「お!那結菜!また後でな!」 とか何とか、聞き取れない口調で、走って出ていった。 「何かあったんですか?」 真田さんは笑っていた。 「あははは」 「真田さん…?」 「あぁ、すまない。あまりにも那結菜ちゃんの感が鋭すぎて、いやぁ、実はな…」 真田さんは話してくれた。
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