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この夜から、ほんの数分だけのお忍びデートが始まった。
いつか彼女と幸せになるために、今はこれで我慢しようと自分に言い聞かせた。
毎晩人目を忍びながら会いに来る僕を、彼女は喜んで迎え入れてくれた。不慣れだった木登りも、いつしか上手になっていた。彼女の笑顔だけが、僕の心を支えてくれた。
でも、お忍びデートを初めて一か月が経った頃から、彼女の表情に影が落ちるようになった。
「あなたを愛しているから、これ以上負担をかけたくないの。私のせいで……」
僕との未来を考えて、不安になっているのだろうか。
無理やり笑顔を作ろうとする彼女を抱きしめて、その額に口づけた。
大丈夫。僕は未来へ向けて動き出している。彼女のために広い家も購入した。覚悟なら、もうできている。後はもう一度、彼女へプロポーズをするだけ。
翌晩。
僕は白いバラの花束を抱えて彼女へ会いに行った。あの時と同じ服装に同じ花束、もう一度プロポーズをやり直すために。
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