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僕には、大切な彼女がいる。
甘えん坊で寂しがり屋の可愛い彼女。
生涯をかけて、守りたいと思った。
でも、プロポーズをして未来を約束し合った矢先に、僕は彼女と引き離されてしまった。けたたましい、車のブレーキ音と共に。
彼女は大金持ちのお嬢様で、僕は平凡な会社員。釣り合わないのは誰の目にも明らかだった。
(それでも、彼女にもう一度会いたい)
薄暗い場所で目を覚ました僕は、慣れない道を手探りで歩き続けた。
迷い続けて1週間が過ぎた頃、ようやく彼女の屋敷にたどり着いた。
今すぐ会いたいけれど、昼間は使用人たちが慌ただしく走り回っている。見つかったら大変だと思い、僕は夜を待つことにした。
辺りが暗くなり、2階の彼女の部屋に明かりがついた。
不法侵入が立派な犯罪だということは十分に理解している。しかし、これしか会うための方法がないのだから仕方ない。
僕は屋敷に侵入し、彼女の部屋から一番近い木に登った。人生で初の木登りだったが、彼女に会える嬉しさが勝り恐怖も困難も感じなかった。
何とかベランダに飛び移って、カーテンの隙間から部屋の中をのぞいた。
(ーー居た!)
彼女は、僕の写真を手に持って涙を流していた。その姿を見て、さらに愛しさが込み上げてくる。今すぐに抱きしめたい。
僕は心を落ち着かせようと深呼吸した後、窓をコンコンと叩いた。
恐る恐るカーテンを開ける彼女の目が、僕を捉えて大きく見開かれた。
「どうして……」
窓を開けながら、今にも消え入りそうな声で彼女が言った。
「どうしても、もう一度君に会いたかったから」
微笑みながら両手を広げると、彼女は泣きながら僕の胸に飛び込んできた。
「私が、会いたいって願ったから…… ごめんなさい」
僕にしがみつきながら、彼女は謝罪の言葉を口にした。何に対しての謝罪なのか分からない。でも、愛しい彼女が自分の腕の中に居る今は、他のことなんてどうでもよかった。
「会いたかったよ……」
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