10人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
俺は憧れの赤門の前に立っていた。
そして、もう一度入学の案内を読む。
新入生の諸君、入学おめでとう。 法学部の入学式は他の学部とは違い、下記の場所で行う事から、必ず注意事項を読んで来ること。
まず、赤門の下に行き
・ 上を見る
・ 正面を見てから、再度上を見る
・ 下を見る
・ 正面を見てから、再度下を見る
・ 左を見る
・ 右を見る
・ 左を見る
・ 右を見る
・ 最後に右、左の順で足踏み
なんだこれ? 某有名ゲームメーカーの隠しコマンドか? と感じながらも律儀にその行動を行った俺は、地図に書いてある校舎を目指した。
校舎に付いた俺は、入学案内の通り301教室へと足を運んだ。
すると、バドミントンコート1面くらいの広さがある教室には、既に十人程の学生が俺と同じように大荷物を持って、佇んでいた。因みに、新入生は好き好んで佇んでいる訳では無い。この教室には椅子も机も無く、ただガランとしているのだ。つまり、する事が無く、ただ皆適当な距離感と取って佇んでいるのだ。
取り合えず俺も右に倣えで、佇んでいたところ、突然知らない男が俺の右肩を叩いてきた。
俺は「なにか?」とあっさりとした返事をしたところ、男はニヤけながら右手を差し出して来た。
「はじめまして。俺は川村明海、よろしく」
何とも社交的な男だ。俺には無い能力だなと思いながら、俺も相手が差し出した手を握り返した。
「俺は京谷悦士。一応現役合格だが、ここに居るのはみんな補欠合格者なのか?」
川村は俺の質問に、顔を左右に振った。
「いゃ、よくわからん。俺も補欠合格なので、荷物を沢山持ってきているが、中には殆ど荷物を持っていない者もいるから、どうなんだろうな?」
俺はその話を聞くなり、周りを見渡したところ、確かに三人位は手提げかばんしか持っていない者が散見された。
「確かに、明らかに荷物が、少ないやつがいるな。どういう事なんだろう。ここって、補欠入学だけじゃないのか?」
そんな話をしていると、教室の扉から二十代後半の女性が、白衣にピンヒールと言った出で立ちで、教室中央まで歩んできた。
そして、パリコレのモデルが、端まで歩いてポーズを決めるかの様な体制で、自己紹介を始めた。
「私は、この学部の教授をしている曽根空と言う。よろしく。初めに言っておくことがある。まず、諸君らが合格したのは法学部では無いという事だ。まぁ、それは合格通知に書いてあるから分かっているとは思うがな」
……なに? 俺の脳にはクエスチョンマークが乱舞しだした。
俺は経済学部に落ちて、法学部に着たつもりでいたが、法学部では無い? 俺はなぞなぞを出されている気分だったが、曽根教授の話していた事をもう一度おさらいしてみた。曽根教授が話していて引っ掛かった点が1つある。それは『合格通知に書いてあるから』と言っていた事だ。合格通知にそんな事が書いてあったかと、疑問の念を抱いた俺は、スマホを開き、合格通知を確かめた。
すると、そこにはこう書いてあった。
上記にある様に、あなたは希望する学部へは不合格となりました。
ただし、補欠合格として、本校の 法学部に合格をしました。
手続きは、下記の通りとなっておりますので、その指示に従って、入学手続きをお願いします。
そうだ。この文章は俺が読んだものだ。
間違いなく法学部に合格と書いてあるが、何が違うんだ? 俺は理解出来なかったことから、スマホの画面を教授に見せながら挙手した。
「はい、そこの学生。なにかな?」
教授は俺の、挙手に気が付き、俺を指してくれた。
俺は発言権を得たことから、教室の全員に聞こえるような声で、質問を始めた。
「先生、私の合格通知には法学部に合格しましたと書かれていますが、なぜ法学部ではないのでしょうか?」
すると、俺と同じようにスマホの画面を見ている学生が数人頷いた。
どうやら、俺と同じ合格通知を貰っている様だ。
すると、曽根教授は腕を組みながら頷いた。
「うんうん。何人か、今発言した学生と同調したようだが、同じ意見でいいか?」
その発言に、再び何人かの学生が頷いた。すると、教授は鼻で笑い、口元を緩めた。
「おいおい、よーく合格通知を読んでくれ。さっき発言した……君、何てかいある?」
そう言って俺の事を指さすので、俺は教授に聞こえる様に合格通知を音読した。
「……ただし、補欠合格として、本校の法学部に合格をしました」
「ほい、そこだ。読み間違えているのは。法学部の前どうなってる?」
俺は再度、法学部の前を読み返すと『本校の 法学部』となっていた。俺は、その点を全員に分かる様に挙手して発言をした。
「え~と、スペースがあります」
「その通りだ。学生、君の名を聞いてもいいか?」
「はい。俺は京谷悦士といいます」
「OK京谷。ところで、君は今スペースと言ったが、それは日本語に直すとなんだ?」
日本語? 何を言っているのか、よく分からなかったが、俺は取り合えず頭に浮かんだ言葉を発した。
「空白でしょうか」
「そうだな。空白だ。まぁ、他の言い方をするなら、『間だ』」
まぁ、そう言われればそうだ。『間を取る』とか言うから、間とも言え無くないが、それがどうした?
「そこで、京谷、法の前には間があるのだが、続けて読むと何学部になる?」
俺は言われたままに答えてみた。
「間法学部ですか?」
教授の口角が上がった。
「その通りだ京谷。ここは魔法学部だ! 諸君らようこそ、魔法学部へ! 私が魔法学部教授曽根空。学生は私の事をソニックと呼んでいるが、まぁ好きに呼ぶとよい!」
「…………はい?」
俺以外に、数人の学生が、奇妙な声を上げた。
最初のコメントを投稿しよう!