合否

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 俺は憧れの赤門の前に立っていた。  そして、もう一度入学の案内を読む。  新入生の諸君、入学おめでとう。 法学部の入学式は他の学部とは違い、下記の場所で行う事から、必ず注意事項を読んで来ること。  まず、赤門の下に行き  ・ 上を見る  ・ 正面を見てから、再度上を見る  ・ 下を見る  ・ 正面を見てから、再度下を見る  ・ 左を見る  ・ 右を見る  ・ 左を見る  ・ 右を見る  ・ 最後に右、左の順で足踏み  なんだこれ? 某有名ゲームメーカーの隠しコマンドか? と感じながらも律儀にその行動を行った俺は、地図に書いてある校舎を目指した。  校舎に付いた俺は、入学案内の通り301教室へと足を運んだ。  すると、バドミントンコート1面くらいの広さがある教室には、既に十人程の学生が俺と同じように大荷物を持って、佇んでいた。因みに、新入生は好き好んで佇んでいる訳では無い。この教室には椅子も机も無く、ただガランとしているのだ。つまり、する事が無く、ただ皆適当な距離感と取って佇んでいるのだ。  取り合えず俺も右に倣えで、佇んでいたところ、突然知らない男が俺の右肩を叩いてきた。  俺は「なにか?」とあっさりとした返事をしたところ、男はニヤけながら右手を差し出して来た。 「はじめまして。俺は川村明海(かわむらあけみ)、よろしく」  何とも社交的な男だ。俺には無い能力だなと思いながら、俺も相手が差し出した手を握り返した。 「俺は京谷悦士(きょうやえつじ)。一応現役合格だが、ここに居るのはみんな補欠合格者なのか?」  川村は俺の質問に、顔を左右に振った。 「いゃ、よくわからん。俺も補欠合格なので、荷物を沢山持ってきているが、中には殆ど荷物を持っていない者もいるから、どうなんだろうな?」  俺はその話を聞くなり、周りを見渡したところ、確かに三人位は手提げかばんしか持っていない者が散見された。 「確かに、明らかに荷物が、少ないやつがいるな。どういう事なんだろう。ここって、補欠入学だけじゃないのか?」  そんな話をしていると、教室の扉から二十代後半の女性が、白衣にピンヒールと言った出で立ちで、教室中央まで歩んできた。  そして、パリコレのモデルが、端まで歩いてポーズを決めるかの様な体制で、自己紹介を始めた。 「私は、この学部の教授をしている曽根空(そねそら)と言う。よろしく。初めに言っておくことがある。まず、諸君らが合格したのは法学部では無いという事だ。まぁ、それは合格通知に書いてあるから分かっているとは思うがな」  ……なに? 俺の脳にはクエスチョンマークが乱舞しだした。  俺は経済学部に落ちて、法学部に着たつもりでいたが、法学部では無い? 俺はなぞなぞを出されている気分だったが、曽根教授の話していた事をもう一度おさらいしてみた。曽根教授が話していて引っ掛かった点が1つある。それは『合格通知に書いてあるから』と言っていた事だ。合格通知にそんな事が書いてあったかと、疑問の念を抱いた俺は、スマホを開き、合格通知を確かめた。  すると、そこにはこう書いてあった。  上記にある様に、あなたは希望する学部へは不合格となりました。  ただし、補欠合格として、本校の 法学部に合格をしました。  手続きは、下記の通りとなっておりますので、その指示に従って、入学手続きをお願いします。    そうだ。この文章は俺が読んだものだ。  間違いなく法学部に合格と書いてあるが、何が違うんだ? 俺は理解出来なかったことから、スマホの画面を教授に見せながら挙手した。 「はい、そこの学生。なにかな?」  教授は俺の、挙手に気が付き、俺を指してくれた。  俺は発言権を得たことから、教室の全員に聞こえるような声で、質問を始めた。 「先生、私の合格通知には法学部に合格しましたと書かれていますが、なぜ法学部ではないのでしょうか?」  すると、俺と同じようにスマホの画面を見ている学生が数人頷いた。  どうやら、俺と同じ合格通知を貰っている様だ。  すると、曽根教授は腕を組みながら頷いた。 「うんうん。何人か、今発言した学生と同調したようだが、同じ意見でいいか?」  その発言に、再び何人かの学生が頷いた。すると、教授は鼻で笑い、口元を緩めた。 「おいおい、よーく合格通知を読んでくれ。さっき発言した……君、何てかいある?」  そう言って俺の事を指さすので、俺は教授に聞こえる様に合格通知を音読した。 「……ただし、補欠合格として、本校の法学部に合格をしました」 「ほい、そこだ。読み間違えているのは。法学部の前どうなってる?」  俺は再度、法学部の前を読み返すと『本校の 法学部』となっていた。俺は、その点を全員に分かる様に挙手して発言をした。 「え~と、スペースがあります」 「その通りだ。学生、君の名を聞いてもいいか?」 「はい。俺は京谷悦士といいます」 「OK京谷。ところで、君は今スペースと言ったが、それは日本語に直すとなんだ?」  日本語? 何を言っているのか、よく分からなかったが、俺は取り合えず頭に浮かんだ言葉を発した。 「空白でしょうか」 「そうだな。空白だ。まぁ、他の言い方をするなら、『間だ』」  まぁ、そう言われればそうだ。『間を取る』とか言うから、間とも言え無くないが、それがどうした? 「そこで、京谷、法の前には間があるのだが、続けて読むと何学部になる?」  俺は言われたままに答えてみた。 「間法学部ですか?」  教授の口角が上がった。 「その通りだ京谷。ここは魔法学部だ! 諸君らようこそ、魔法学部へ! 私が魔法学部教授曽根空。学生は私の事をソニックと呼んでいるが、まぁ好きに呼ぶとよい!」 「…………はい?」  俺以外に、数人の学生が、奇妙な声を上げた。
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