合否

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合否

 不合格  俺はスマホの画面を見ながら落胆していた。  この度、俺は帝都大学経済学部を受験したのであったが、結果はスマホの画面の通りだ。これでも勉強には自信があったので、まず落ちる事は無いと(たか)(くく)っていたが、世の中はそんなに甘くないらしい。  俺はリビングで試験の結果を待っている母親に、なんと説明したらよいのかを、考えるだけで憂鬱になってしまっていた。  俺はベッドの上に寝そべりながら、スマホを見上げた。  何度見ても『不合格』の文字は『合格』には変化しない。  俺は、不合格の下に書かれている注意事項に『再テストの案内』や、問題に不備が見つかったので『テストやり直し』等の不備が書かれていないかと、画面をスクロールさせた。  まぁ、そんな事が書いてあるなんて、幼稚園児が、大谷翔平からホームランを打つ確率といい勝負だろう。  俺は微塵も期待を寄せてはいなかったが、取りえず最後まで注意事項を読むため、画面をスクロールさせてた。  すると、注意事項の最下層部に、赤字でかかれたある注意書きが目が留まった。  俺は、注意書きを二度見した。  そして、注意書きにはこう書いてあったのだ。  上記にある様に、あなたが受験した学部へは残念ながら不合格となります。  ただし、補欠合格として、本校の 法学部に合格を致しました。  もし本学部を希望するのであれば、手続きは以下の通りとなります。  俺は、二度ならず、三度読み返した。やはりどうやら、経済学部には落ちているものの、法学部には合格したらしい。  経済学部より、法学部の方が偏差値高く無かったか? と疑問が残らなくは無かったが、俺は取り合えずこのチャンスを逃すまいと補欠合格の手続きに移った。  俺自身希望していた学部ではないが、親を落胆させるよりかは遥かにいい。  大学など所詮卒業してしまえば、どこどこ大卒の肩書しか見られやしない。  そう考えたおれは、手続きをしながら、リビングで待っている母親の元へと階段を下りて行った。  どうやら、京谷悦士(きょうやえつじ)という幼稚園児は、大谷翔平からホームランを打ったらしい。  ● ● ●  四月七日、俺は帝都大学の入学式へと向かうべく準備をしていた。  入学式の準備といっても、『スーツを着て髪を整える』ではなく、俺の準備は長旅に行く準備に近い。  大型のスーツケースと大きなボストンバッグ。  それらを自分の部屋から引きずり出すことを入学準備と呼ぶ。  どうやら、俺が合格した学部は通いではなく、全寮制の学部らしい。  補欠合格というのがネックで、通常の法学部とは異なり、授業日数が増える関係上、寮生活が強制されると合格案内に書かれていた。  とは言え、どうせたった四年間と短い期間であるし、家から出てみたい気持ちもあった事から、俺は寮生活を楽しみにしていた。  そして、寮生活を行うにあたり、最低一週間分の衣類を用意する事と書かれていたことから、荷物がこの量になってしまったのだ。  俺は大型の荷物に若干悪戦苦闘をした。  とりあえず、ボストンバッグを肩に賭けながら、スーツケースをドアから廊下へ出そうとしたとこ、出入口付近の戸棚にバッグの端をぶつけてしまった。  大きな荷物を運ぶ時によくやる失敗だ。  そして残念な事に、バッグが当たった衝撃で、戸棚に飾って置いたお菓子の缶が勢いよく、床に落ちた。  慌てている時は大体失敗が重なる。  今回も例にもれず、落ちた缶からは、パチモンカードやスーパーボール、キーホルダーと言った、所謂子供の宝物がこぼれ出たのだ。  そう、この缶は誰もが子供の頃に持っていたであろう、『宝箱』と呼んでいるものだ。  俺は、中からこぼれた宝物を見ながら、つい懐かしく感じてしまった。  しかし、入学式の時間は刻一刻と迫っている為、思い出に浸っている時間等は微塵もない。  俺は慌てて、カード等を缶に戻して棚に置いた。そして、ボストンバッグを肩にかけようと思った時、その傍らにはスーパーボールが1個落ちていた。  どうやら、慌てて片付けたため、一つしまい忘れてしまったらしい。  俺は、再び缶を開けてしまうのが面倒くさかったことから、そのボールをポケットに突っ込んで、玄関へ向かうのだった。
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