クリスマス.由紀乃

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 竜介の表情からはその迷いはなかった。孝江もそれを感じ取っていた。 「わかった。でもそれを告げるのはまだ早い。特にあの、姉さんにはまだ言うな。知明には言っても大丈夫だろう。そっと死体腎移植希望リストから外しておく。そして二十歳になった時にもう一度よく考えるんだ、いいね。臓器は簡単にあげるものじゃないし、後悔して返してもらうこともできないぞ」 「うん。でも大丈夫だ。あげない方が後悔すると思う」  孝江が、竜介の頭をくしゃくしゃにした。 「よく考えたな。いつまでも子供だと思っていたよ。育ての母としてはうれしい」  竜介は、もみくちゃにされた自分の髪を手櫛で直す。 「まあね、こっちも叔母ちゃんみたいな人が育ての母で、成長せざるを得ないよな」  竜介と光司が目を合わせて笑う。 「なんだ、なんだ。今のは聞き捨てならぬ言葉」 「いや、褒めてんだよ」 「褒め言葉に聞こえなかったぞ、ねえ、由紀乃ちゃん」 「はい、あ、いえ」  私達に笑顔が戻っていた。  そんなことがあっても私達はいつもと変わりない生活を送っている。術後の知明は夜間透析になり、学校に戻ってきた。  竜介の母も言い過ぎたとあの後、きちんと謝ってきたらしい。竜介は、前世の話を知っているから、母親に対する態度が柔らかくなった。あれ以来、時々実家に顔を見せても言い争いなしだという。  自分の態度が変わると相手も変わるんだと竜介が悟ったように言った。私と竜介は相変わらず同居のままだが、大学生になってもそれは変わらないだろう。  週一度は父のところへ行き、父娘として過ごす。それでいいだろうと思っている。  竜介といつかはさらに親しい仲になるだろう。だって私達は結ばれる運命にあるのだから。  一途な愛を。    One Love
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