クリスマス.由紀乃

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 今明かされたことをすべて受け入れるには時間がかかるだろうが、そういう前世の未練を追っていた、母親に同情できると思う。 「へえ、竜介と由紀乃ちゃんは夫婦だったんだ。じゃ、僕は?」  光司がそういうと孝江は鼻で笑う。 「光司は竜介の側近だった。侍時代はきりっとしたいい男だったぞ、どうして今はこうなんだ」 「え、今はきりっとしてないっていうんだね」  光司がショックを受けていた。 「母さんは僕のなんだったんだろう。敵か?」 「光司は弟だ。年の離れた姉弟だったから、まあ今とあまりかわりない関係だな」 「そうだったんだ。僕っていつの世も母さんと係わっていたんだね」 「なんだ、うれしそうじゃないな」 「昔の方がいい男だったなんて言われてうれしいわけないだろ」  珍しく光司が食ってかかっていた。 「なあ、叔母ちゃん」  皆が竜介を見た。 「オレ、前から調べていたことがあったんだ。知明のこと。でも、移植したからもういいかって思ってたけど」 「ん?」 「オレの腎臓、一つ、知明にやることにする」  もう以前から決めていたことなのだろう。きっぱりと言った。 「双子の生体移植なら、拒絶反応は殆どないって聞いた」 「そうだけど」 「二十歳になればできるんだろ。オレさ、高校に入った頃から調べていたんだ。でもまだそんな年齢じゃないし、そんなことを言っておいて、いざとなって怖気づいたら困るから誰にも言わなかった。けど、ずっとそうなったらいいって思ってた。今、叔母ちゃんの言葉でわかった。今世もオレ達は双子として生まれてきた意味が。今なら医療技術があるから、移植することで知明も健康になれる。ってことはあの人、母さんも救うことができるかもしれない」  私は竜介のその言葉に反応するかのように、さっと全身が粟立つ。  そうなのかもしれない。そうなったら、拒絶反応なしの移植を受けた知明は普通の人の健康状態を保てる。今世まで知明の体のことを心配していた母親も救われるかもしれなかった。 「けど、竜介も腎臓が一つになる。もし将来、腎臓関係の病気にかかったら、今度は自分が……」 「いいよ。たとえ、そうなってもオレは知明に一つ、やる。うん、そのために今回も双子として生まれてきたんだ。すっごく納得できるだろっ」
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