【八】大晦日のテレビ 【愛して、喰らう:兼貞×絆】

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【八】大晦日のテレビ 【愛して、喰らう:兼貞×絆】

 ――十二月三十一日、夜。 「はぁ……」  兼貞のマンションで、俺はテレビを見ている。キッチンの向こうでは、楽しそうに兼貞が年越しそばの準備をしているけれど、俺は国民的な歌番組をまじまじと見据えている。いつか、審査員になりたい。  ……。  一応今年は、俺もかなり売れたと思う。きっとこれは俺だけが思っているわけではないはずだ。多分、おそらく、きっと、絶対に!  来年や再来年は、もっともっと飛躍し、このままフェードアウトといった事態にならないように気を付けたい。頑張りたい所存である。 「絆、あとは蕎麦を茹でるだけだけど、どうする?」 「ん。どうするって……」 「年越しまで、俺は待てそうにないんだけど」 「お腹空いてるのか?」 「そうじゃなく。早く絆と一緒に寝たいって事」 「言ってろ。俺は今年活躍した有名人の確認に忙しいんだ。それに年越しそばは、年越しに食べるものだろ?」  適当に兼貞に言い返してから、俺はその後もテレビを凝視した。  するとさらりと俺の隣に座した兼定が、不意に俺の肩を抱き寄せてきた。 「絆って、意外とこういう番組好きなの?」 「へ?」 「俺って、年末にみんなが見るようなのって、あんまりこれまで見てこなかったから、何年ぶりにこの番組見てるんだろうって気分なんだよね」 「……まぁ。俺の家は年末年始は忙しいから、基本的には家族が家にそろってて……そうすると何気なくテレビをつけて、その……なんとなく見る。見てた。だから俺もそういう番組に出られたらいいなぁとは思う」 「そっか。じゃ、一緒に目指すか」 「……別に、兼貞となら一緒に出てやってもいいけど」 「あー、でも俺としては、来年も再来年も、二人っきりで過ごしたいかも」 「……」  それはそれで悪くないと言おうとして、俺はやめた。  最近、恋人としての仲がどんどん深まっていて、俺は兼貞の事も大切な家族のように感じる場合がゼロではない。たまにはある。今となっては俺もマイノリティの道に進んでしまったわけだが、それがいつの日か国としてもサポートされるのかは完全に不明な現在……俺と兼貞は、口では家族になれても、公的にそういうポジションになるわけではない。ただ別段俺は、それを寂しいとは思わない。隣に兼貞がいるのが分かっていて、そばにいられるこの瞬間が大切だから、別段俺は戸籍などにこだわりはない。 「絆。来年も再来年も一緒にいてくれるか?」 「兼貞こそ」 「絆が嫌だって言っても、俺はそばにいるよ」  兼貞はそういうと、チュッと音を立てて俺の頬に口づけた。  全く恥ずかしい奴である。だから、俺が照れてしまったのだって仕方がないだろう。頬が熱いままで、俺はチラリと兼貞を見た。そして――一瞬だけ、兼貞の唇に、触れるだけのキスをしてやった。すると虚を突かれたように兼貞が目を見開いた。 「絆……可愛い」 「黙ってろよ」 「ねぇ、絆? もっとキスして?」 「断る!」 「じゃあ俺がしてもいいか?」 「だから俺はいまテレビに忙しいと言ってるだろうが!」  結局そんなやり取りをしながら、俺達はベタベタしつつ、テレビ番組を見終えた。  現在画面には、除夜の鐘などが映し出されている。 「そろそろ茹でるか」  兼貞が立ち上がったのは、年越しが迫った頃だった。俺はその背を眺めながら、ふと考える。一緒にいるのだから、『よいお年を』と今更述べるのも変だろう。では、『あけましておめでとうございます』はどうなのだろうか? 新年になったら、俺はまず最初に兼貞になんて言えばいいのだろう。俺の気持ちを素直に述べるのならば、それは『好きだ』で終わってしまうし、恥ずかしいから口が裂けてもそんなことは言えないが。 「絆、出来た」 「食べる」  こうして俺達の年越しが始まった。  簡潔に言って、おそばは非常に美味である。兼貞は、ごく一般的な料理が本当に上手だ。今年は春先からほぼ一緒に暮らしているようなものだけれど、もう何度も作ってもらったから、俺もそれは知っている。あとは、俺も少しだけ、料理を覚えたのだったりする。  刻、刻一刻と年明けが迫ってきて、テレビからはカウントダウンの音声が流れ始めた。  まだ俺は、考えている。最初に、兼貞になんて話しかけようかと。  5,4,3,2――1。  こうして新年が訪れた。 「絆」 「兼貞」  俺達の声が重なった。すると瞬きをしてから、兼貞が微笑した。 「ん? なに?」 「あ、っその、そっちこそ」 「絆から話してくれ」 「――好きだよ」  結局俺は、本音を伝えてしまった。すると目を丸くしてから、兼貞が破顔した。 「知ってる」 「そ、そうか。それで? 兼貞は何て言おうとしたんだよ?」 「――愛してる」 「知ってる」 「新年一秒目から相思相愛の両思いだと確認できて、俺は幸せだ。絆、これからもよろしくな」 「ああ。今年もいっぱい、その……一緒にいような」  そんな風にして、俺達は新年を迎えた。  なお――ローラさんが享夜に結婚したいと繰り返し告げていて、法律的に、というか人間と人外であるし困難ではと、亨夜が困惑しながらも赤面する日が増加傾向にあるという話を、俺は新年になってから紬に聞かされるのだが、それはまだずっと先のお話である。  俺としては、兼貞と、これからもずっと同じ道を歩いていけたら、それで幸せである。
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