【三】姫初めまで待てないので年収め(★)【藍円寺昼威のカルテ:侑眞×昼威】

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【三】姫初めまで待てないので年収め(★)【藍円寺昼威のカルテ:侑眞×昼威】

「――なるほどね。じゃあ今頃、藍円寺にはローラさんがいるのか」  喉で笑って、徳利から熱燗を注ぎながら、御遼侑眞が微笑した。猪口を持っている、藍円寺昼威は顎で頷いた。 「吸血鬼がお寺で除夜の鐘をつく手伝いをするというのもシュールだね」 「吸血鬼など存在しないが、すると仮定して――絢樫さんは、今更言うのもなんだが、害は無い」 「ブラコンの先生が認め始めたのが、俺はすごいと思います」  昼威は熱燗を舐めながら、内心で思っていた。また――『先生』になっている。医師であるからそう呼ばれる事には慣れているが、恋人なんだから名前で呼んで欲しいと思いそれを告げてからも、もう一年以上が経過している。一歳しか年齢が違わないのに、いまだに侑眞が敬語を出すのも時々納得が出来ない。 「本当に享夜君を置いてきちゃって良かったの?」 「去年だって、ここで俺達は結界騒動の後だというのに、寝正月だっただろうが」  唇を尖らせた昼威を見て、楽しそうに侑眞が笑った。それは事実だ。  なお寝正月は、御遼の当主の伝統だ。神社業は多忙な時期だが、当主である侑眞は寝る事が仕事となる。ちなみ芹架と斗望は、侑眞の父である一般的な会社を経営している『普通の人物』が面倒を見ている。ホテル業をしていて不動産も所持しているのだが、昼威が借りているマンションは、その内の一つだ。侑眞も合鍵を渡されて久しい。朝儀と彼方は、早々に御遼神社を後にした。 「日付が変わるまで、まだ時間があるね」 「そうだな」  そんな時刻であるが、二人の酒盛りは始まっている。昼威が好きそうな酒があるからと、侑眞が色々用意するのは比較的常の事だ。現在、二人の前には様々な酒の肴がある。 「姫初めまで待てるかなぁ」 「は?」 「――先生が色っぽすぎて」 「俺に色気を感じる人間なんてお前くらいだ」 「はーい、無自覚。これだから俺もやきもきさせられるんです」 「それに待つ必要があるのか? 俺達は、その……」  ……恋人同士なのに。と、昼威は言おうとしてやめた。もう付き合って一年以上になるし、その前の友人関係、先輩と後輩という仲も数えるならば、二十年以上の付き合いとなるのだが、昼威は意外と初々しいし、侑眞はそれに気を良くしていた。 「恋人だもんね?」  最初は侑眞の方に余裕が無かった。長すぎる片思いをこじらせていた。けれど思いのほか昼威が照れ屋だった結果、今では侑眞の方に余裕がある場合もある。昼威の隣に座り直し、侑眞は昼威の手首を握ってから、もう一方の手で猪口を取り上げ、卓に置いた。  そんな侑眞の顔を、昼威がじっと見る。そして己の唇を静かに舐めた。それが誘っているように見えて、我慢出来ずに、侑眞が目を伏せ顔を斜めにして昼威の唇を奪う。 「ん」  互いに互を求め合うように、深いキスをする。舌を絡め合い、角度を変え、何度も何度も深く貪りあう。目を閉じている昼威は、その感触に浸っていた。侑眞は時折目を開けては、昼威の存外長い睫毛を見る。尤も、睫毛が長い事はとっくに知っていたが。 「ン、ぁ……」  唇が離れた時、二人の間には、透明な線が出来ていた。そのまま、畳の上に、侑眞が昼威を押し倒す。人払いは済んでいるというか――周囲も感づいているため、二人の邪魔をしないように入ってこない。その事実を昼威は幸い知らないのだが、気づいたら赤面して怒り出すだろうなと侑眞は考えている。  昼威のシャツのボタンを外しながら、侑眞が微笑する。目を開けた昼威は、その優しげな顔を見上げている。こうして、一年最後の交わりが始まった。 「ぁ、ァ……っ、ん」  ゆっくりと挿入された昼威は、汗ばむ体を小さく震わせながら、熱い吐息を零す。潤んだその黒い瞳を見ながら、侑眞が昼威の眼鏡を外して、傍らに置いた。伊達眼鏡なので、視力に問題は無い。 「んン、ぁ」  グっと深く挿入されながら頬を舐められて、昼威の背筋をゾクゾクとしたものが這い上がっていく。昼威の感じる場所を押し上げる形で、侑眞が動きを止める。昼威が抗議するように、侑眞を睨んだ。 「は、早く、動け――っ、ぁ……」 「すごい。絡み付いてくる」 「そんな実況をするな」 「先生、本当我が儘」 「ッ、ぁ……あ、あ、ア」  我が儘な俺は嫌いかと問いかけようとした昼威だが、快楽に思考が塗り替えられていくから、それが出来ない。侑眞が時折、意地悪く腰を揺さぶると、その度に昼威の眦からは透明な雫が溢れる。 「あ、あ、侑眞、ァ」 「もっと俺の事、求めて?」 「何言って――俺が、求めてない日があると思うのか? ンん!!」 「可愛い事を言って欲しかったわけじゃないけど、先生って俺を煽るのが上手いよね」 「あ、ア! バ、バカ、あ、激し――ああああ」  急に侑眞が突き上げ始めたものだから、昼威は再びギュッと目を閉じる。黒い髪が揺れている。嬌声が勝手に零れおちていく。 「ね、昼威さん」 「あ、あ、あ、待て、ぁ、ダメだ」 「気持ち良い?」 「それはある、けど、お前こそ俺を煽るのが上手すぎる」 「――え?」 「このタイミングで名前を呼ぶなんて卑怯だ、っ……うあああああ!」  昼威の言葉にもう堪えきれなくなって、激しく侑眞は打ち付けた。そのまま昼威もまた理性を失い、侑眞にしがみついて、散々喘いだ。  ――事後。  一緒にこの庵のシャワーを浴びて、体を清めてから、二人は再び猪口を手にしていた。今度は、最初から並んで座っている。侑眞に着替えを借りた昼威は、折角気合を入れて選んだ私服ではなく、現在は和服姿だ。 「先生の和服って意外と貴重だよね」 「似た顔の享夜は、ここの所常に和服だけどな」 「享夜君じゃ意味がないんです。俺が好きなのは、先生だから。どんなに似ていても中身が違う。空気をぶち壊すような事を言わないで下さい」  昼威の持つ猪口に酒を注ぎながら、侑眞が吹き出している。それを見ている昼威の頬が赤いのは、決して酒のせいではないだろう。
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