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色褪せた写真
凄まじい音がして、衝撃がやってくる。
痛くはない。ただ、ぼんやりした視界の中で、痛々しい赤がはっきりと見えた。
耳をつく叫び声が、遅れて聞こえた。
「…ここ…どこ…?」
何だか、すごく悪い夢を見ていたみたい。
…あれ?
私って、誰だっけ…?
「おはようございます、若草日和さん」
若草日和ーーーー確か私は、そんな名前だったな。
私の名前を呼んだその人は、白衣を着た女性だった。
「あの…ここは、どこなんですか?」
「病院よ。体調はどう?」
病院って…なんで?
「なんで病院にいるんですか?私」
「なんでって…覚えてないの?急に倒れて病院に運ばれたのよ。重い病気ではないけど、手術をしなければならないから、七日間だけ入院することになったのよ、あなた」
手術⁈大丈夫なのかな…。
「とりあえず、疲れているでしょうから、ベッドに横になっていて。昼食をとってくるわ」
彼女が部屋を出ていき、私は1人になった。
私は急に倒れて病院に運ばれて、手術をすることなって…。
全く覚えてないけど、そういうことらしい。
ふと、ベッドサイドのテーブルに何かの紙が置いてあることに気づいた。
そこには、こんなことが書いてあった。
『名前・若草日和
年齢・16歳
目が覚めたら、このペンダントをやってください』
そこには、若草色の石が嵌め込まれたペンダントが置いてあった。
そのペンダントを、手に取って見つめる。
若草色の石は、どうやら本物の宝石みたいだ。
どこかで見たことがあるような…でも、思い出せない。
もし本物の宝石だったとしたら、誰がこんなものくれたんだろう。
私はそこで、ペンダントに金の留め金がついているのに気づいた。
その留め金を外すと、中には色褪せた写真があった。
「この人…」
誰なんだろう、その言葉は、口から出てこなかった。
そこにいたのは、栗色の髪の男の子だった。
どうして見ず知らずのはずなこの子の写真が、ペンダントの中にあるんだろう。
でもその男の子は知らないはずなのに、どうしようもなく懐かしく思えた。
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