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動物園のパンダにでもなったような気分だなぁ、などという思いはおくびにも出さず、新菜は最上級の笑みを作った。
「初めまして、オルハーレン侯爵、侯爵夫人。ニナと申します」
腹の上で手を重ね、腰を折って一礼する。
主の友人に失礼があってはいけないと、新菜は気を張っていた。
「名を知ってるってことは、俺たちのことはハクアから聞いてるのかな?」
「はい。ある程度、ではありますが」
「こいつ無口だからなあ。言葉を引き出すのも大変だろ」
からからとイグニスが笑う。新菜は曖昧に笑った。
「ところで、ちっちゃいのはどうした? 中か?」
イグニスは辺りを見回した。ちっちゃいの、がトウカの愛称らしい。
「ああ。中で話そう、上がれ」
ハクアは銀色の髪を翻し、丘を上り始めた。
(『上がれ』って……)
爵位制度のあるこの王国で、侯爵といえば公爵に続く上級貴族。
それなのに命令形。そもそも彼にこの家を与えたのはイグニスだ。
(そりゃあ、年功序列でいうならハクアさんが一番上だし、竜に人間が作った爵位制度や礼節を説いたところで意味がないのかもしれないけど、でも命令形はちょっと……)
長い付き合いになる侯爵夫妻は全く気にしていないようだが、侯爵夫妻の後ろに控える年若いメイドの不満を新菜は見逃さなかった。
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