メイドとして働き始めました

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 同じ使用人として、彼女の心情はわかる。相手がたとえ国王であろうと、敬愛する主人に冷たく命令されたら反感を覚えずにはいられない。  明るい人が友人に「上がれよ」と笑って言うなら命令形でもさして気にならないだろうが、ハクアは無愛想で、声にも抑揚がないからどうしても冷たく聞こえてしまう。 (でも本当は、実直で誠実で、優しい竜なのに)  そのことをわかってほしい。  彼女に、いいや、彼女だけではなく全ての人間に。  たとえ誰にだろうと、ハクアが嫌われるのは嫌だ。  新菜は急ぎ足でハクアの横に並んだ。  後に続く侯爵夫妻たちに聞こえないよう、小声で言う。 「さっきの、家に上がれ、っていう言い方は良くないですよ。ハクア様は淡々と喋るから、冷たく命令してるように聞こえるんです。侯爵家のメイドさんが悲しい顔をされてましたよ」  本当は怒っていたのだが、新菜は嘘をついた。  ハクアはその性格上、他人に怒られるよりも悲しまれるほうが堪える。 「そんなつもりは……」  案の定、ハクアはわずかにうろたえた。 「ええ、侯爵夫妻はハクア様の性格をよくわかっておられます。咎められることもないでしょう。でも、これからは『上がってくれ』という表現を使うのはどうでしょうか。そのほうが柔らかいし、依頼する形になりますから言われても嬉しいと思うんです」  イグニスの話をするとき、虹色の目は優しかった。
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