メイドとして働き始めました

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 姿勢、所作。どれを取っても彼女は淑女として完璧だ。  客間まで歩いてきたときも、その足運びは実に美しかった。  ほとんど衣擦れの音を立てることのない、滑るような優雅な歩き方。  物語でしか知らなかった本物の王女が目の前にいると、新菜は感心しっぱなしだった。 「凄いですね。イグニス様の実力と努力と根性、それはもちろんあると思いますが、何より大きかったのはアマーリエ様への愛ですね!」  新菜はぐっと拳を握った。  最初こそ失礼のないようにと気を張っていた新菜だが、イグニスの巧みな話術によって既に化けの皮は剥がされていた。  肩からはすっかり力が抜け、完全に素で対話している。 「ああ、本当に死ぬかと思ったけどな。でも、後悔はしてない。きっと何度時間を戻しても、俺は同じ行動を取るよ。ワイバーン討伐でも西方の平定でも、アマーリエを妻に迎えるためならなんでもやっただろう」 「きゃー、オアツイ!」  手を叩くと、イグニスは照れをごまかすようにトウカの頭を撫でた。 「むー」  荒っぽいその撫で方が気に入らなかったらしく、トウカがふくれっ面で抗議の声を上げたため、イグニスが手を離す。 「ふふ」  目を細め、アマーリエがトウカの耳を優しく撫でる。 (羨ましいぃー!!)  多少は打ち解けてきたものの、いまだ新菜は『トウカをもふもふする』夢を叶えられていなかった。
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