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劇場
午後三時。少々早いが、休演中の劇場ですることなどない。早めに引き揚げるか。
バックステージの暗闇を抜け裏口へ向かうと、控え室から物音が聞こえた。
空き巣か? ドアの隙間から室内を覗くと、懐中電灯に照らされた肌は白く、繊細そうな女の手だった。
「こそ泥に転職かい? 魅喜ちゃん」
照明を点けると、眩しそうに目を細めたのは、やはり魅喜だった。私が見込んだとおり、整った容姿にはしっかりと化粧が施され、生命力を発していた。見る者を魅了する己の魅力にやっと気付いたらしい。
「やればできるじゃないか、魅喜ちゃん。正直、見違えたよ。化粧をしているってことは、またうちで働く覚悟を決めたってことだろ?」
「街を出るので、荷物を引き取りに来ただけです」
ふん。まだ子共みたいなことを云ってるのか。しかし所詮は小娘、大人の世界を見せてやれば、従順になるさ。
後ろ手でドアを閉め内鍵を掛ける。もう逃げられやしない。
魅喜がいつもの拳銃をいつの間にか、構えている。そんなこけ脅しが効くものか。
「桜井さんが残したのは七発、練習に三発、本番に二発、まだ二発残ってる」
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