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バックステージ
「支配人――さん。そこをなんとか、お願いしますよ。前借でいいんです、アパート追い出されちゃって、この寒空に野宿なんて女の身にはつらすぎます」
人の途絶えた劇場の舞台裏、中年太りの支配人に頭を下げ、綺麗に磨きこまれた高級そうな革靴に向け必死に嘆願する。
「泣き落とそうったって、駄目なものは駄目さ。あんた手品師なんだからさ、ポケットからパァッとさ、出せるんじゃないの? 札束くらい。ハハハッ」
「そ、そんなぁ……」
「ふぅ~ん、そうかい。あんた、芸の腕は悪くないけどさ、今どきタキシードなんて地味な格好で、あれはできませんこれはできません、って言ってるから仕事無くなっちゃうんじゃないのかねぇ。ここはほれ、お客様にアピールしなきゃいかんよ、エロいコスチュームで悩殺が一番手っ取り早いのさ。あんたにゃ、そっちの才能だって十分あるじゃないか、それが嫌なら今ここで私を口説き落としてごらんよ。仕事を回して欲しいなら感謝の気持ちを態度で表すのがプロってもんだ。子供じゃあるまいし、わかるだろ?」
畏まり無防備な両肩に支配人の粗野な掌が優しくそえられ、下げられた耳元に生臭い湿った声で囁かれる。
!! 支配人の真意に気付いた瞬間、全身に悪寒が走り、思わず駆け出していた。うしろから罵りの言葉が追い討ちをかける。
「ふん、結局逃げんのか、すきなだけ逃げな、弱虫!」
心を抉る一撃に体が反応する、足を止めずに振り返ると、からだに覚えこませた動作は、隠しポケットから商売用のピストルを素早く取り出し、支配人に狙い定め、躊躇なく引き金を引いた。
BANG! くたばれ、エロオヤジ!
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