回想

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「久しぶりだね、真生君」  そして、約十年ぶりの生身の郁実君との再会。  郁実君はすらりとした長身で、画面で見るよりももっと輝いて見えた。  柔らかそうな髪はセンター分けで、はっきりと見える綺麗な額に整った形の眉。すっと通った鼻筋に優し気な大きな瞳。立っているだけで惹きつけられて、俺はしばらく言葉を失ってしまったほどだ。  郁実君も俺を「昔から可愛かったけど、すごく素敵に育ったね」と、頭一つ分小さい俺の頭を撫で「わ、髪もあの頃のさらさらなままだ。綺麗な黒髪だよね」と微笑んだ。そんなこと言うけど俺は地味で目立たない奴だから、それは絶対に社交辞令だ。 「……全然だよ」  香水を着けているのか郁実君は匂いまで素敵で、違いが大きすぎて隣に並ぶのが気恥ずかしい。  俺は顔を熱くして下を向いてしまった。胸がいっぱいで、目が潤んできてしまう。 「また会えて嬉しいのに、顔、隠さないで? こっち向いてくれないかな」  郁実君は背を屈めて俺の顔を覗き込んだ。  目と目が合う。  うわ、めちゃめちゃ近い。 「……み、見ないで」 「え? 泣いてる? なに、どうした?」 「なんでもない!」 「でも」 「嬉しい、から。また郁実君に会えたのが嬉しくて……感動、してるだけ」  どうやっても嘘がつけなくて、うつむいたまま言う。   すると郁実君はまた俺の頭を撫でて、髪をくしゃくしゃっと触った。見上げると、とても嬉しそうな笑顔がそこにあった。 「俺も、また会えて嬉しいよ」  目の縁に溜まっていた涙が一粒、ぽろりと落ちた。  それから、郁実君は週に一度の二時間と季節休みの時には詰めて家庭教師をしてくれることになった。    嬉しかった。いつも胸が高鳴っていた。  郁実君と頻繁に会えるようになるのはもちろん、あの頃より大人に近づいた俺たちは、新しい関係を築くことができるかもしれない。今は家庭教師と生徒でも、合格したら一緒に出かけたりとか、してもらえないかな……なんて、再会の瞬間に郁実君を忘れられなかった理由に気づき、恋心を自覚した俺は期待した。  でも……。
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