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そして高三の三月。
努力の甲斐あって、俺は志望大学・志望学部に合格した。……悠生も。
合否はスマートフォンで確認できるから、悠生は合否結果画面を両親と俺にスマートフォンメッセージで送ってはきたけれど、朝から出かけ通しだった。
試験が終わってからずっと友達と遊び歩いているから今日もそうなのだろう。合格祝いで派手に騒いでるのかも、なんて頭に浮かべながら、俺は俺で郁実君に合格を報告しようとスマートフォンを手に取った。
通話で知らせたかった。でも郁実君は出なくて、メッセージを送ってもなかなか既読にもならない。
合否の電話、待ってるよ、と言ってくれていたのに、なにかあったんだろうか……。
着歴が残るからあまりしつこいのもよくないと思い、電話は二度かけてやめ、返答を待っていた。
「……既読、着いた!」
夕食前くらいの時間になりようやく既読がついて、続けてコール音が鳴った。相手は郁実君だ。
寝そべっていたベッドから跳ね起きた。
「もしもし。郁実君!」
「返事が遅くなってごめんね。合格おめでとう、真生」
「うん、郁実君のおかげだよ。ありがとう。それで、合格したら遊びに連れて行ってくれるって話だけど。俺はいつでもいいから」
どきどきと高鳴る胸を手でギュッと握って、郁実君としていた約束を持ち出す。いつでもいいというのは、気持ち的には今からでもいい、明日でもいい。会えるならすぐに行く、という思いがあった。声は上ずっていたと思う。
反して、郁実君は低く重い声で返事をした。
「ごめん、約束、駄目になったんだ」
「……どうして? 体調、悪い? 先になっても待つよ?」
「いや。それが……実は」
郁実君が言葉を濁しながらも言葉を続けようとしたときだった。ガサゴソと音がして、郁実君が「ちょっと待って」かなにか小声で言ったのが聞こえた。そのあとだ。
「真生、俺、わかる?」
ど、くんっ。
心臓が変なリズムで跳ねた。
「……悠生?」
なんで? なんで悠生が、郁実君の電話から話してるんだ?
なんで郁実君と外で一緒にいるんだ?
なんで、合格発表の特別な日に、郁実君と二人でいて、郁実君の電話で……。
頭をどこかにぶつけたよう。ぐわんぐわんして、思考がままならない。
「あのさ、今日から郁実君、俺の彼氏なんだ。詳しいことは帰ったら話すから、今は二人にしてくれる?」
────え? え? え……? ……彼氏?
混乱のまま通話が切れて、俺はスマートフォンを耳に当てて座ったままで長い時間を過ごしていた。
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