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宣告
「このままでは数か月のうちに命を落としますよ」
ここ一年、酷い頭痛と吐き気に悩まされていた俺。まさかとは思っていたけれど、とうとう花を吐くようになってしまい、病院に行った。そこで言われたのは、死の宣告だった。
「体の中にたくさんの花が……チューリップの花の影があるのが見えますか?」
医者のパソコンに表示されたレントゲン画像には、確かにチューリップの花の形が無数にあった。
「廣田真生さん、あなたの病名は花吐き病です」
────花吐き病。
それは、十年ほど前から全世界に広がった奇病だ。片恋をこじらせると体内に花が咲き、身体の細胞を栄養にして成長する。花は嘔吐を通じて体外に出て、そのときに体内に毒成分を残していく。
治癒する為には恋を成就するほかないけれど、花の種類がその行く末を暗示している。
「廣田さん、チューリップの花言葉は"叶わない恋"です。これはあなたの恋が叶わないことを意味しています。そのうちチューリップの毒が回ってもっと吐くようになり、やがては……」
医者はもう二回目は言わず、「薬を出しておきますね」と言って診察を終了した。
花吐き病で治癒の見込みのない患者には、日々の苦痛を和らげる安定剤と睡眠剤が出される。俺も処方箋を貰ったけれど、一日のほとんどを眠って過ごすことになるそれを、薬局に取りには行かなかった。
少し考えたい……これからどうするか。
俺の恋は実ることはないから、命は助からない。両親に伝え、大学にもいつまで通うか決めないと……。
花を吐き始めた時から予感はしていたためか、頭の隅に冷静な俺がいる。それでもはっきりと死の宣告を受けたことは大きな衝撃で、放心して帰路を歩いた。
「真生だ! お帰り。今日は早いんだね」
「……悠生。と、郁実君……」
いつもは遅くまでバイトを入れているのに、病院に行ったせいで会いたくない二人と鉢合わせしてしまった。
悠生は俺の双子の兄で、郁実君は五つ上の幼馴染。そして俺と悠生の家庭教師でもあった人。
二人は去年、俺たち双子が大学に合格したと同時に付き合い始めた。
「久しぶりだね、真生」
郁実君がふんわりと微笑む。途端に胸がむかついてきて、胃の中からこみ上げるものを感じた。
「ん。じゃね」
不愛想に見えたと思う。でも仕方がない。二人の目の前で……花吐き病の原因の郁実君の目の前で吐くわけにはいかない。
俺はろくに挨拶もしないで、悠生と二人で住むアパートの中に入り、早足で自分の部屋に向かった。
「う、ぐっ。ぐぇっ……」
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