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8
俺は念入りに歯を磨いて、寝癖がないか髪もチェックして、もらった紺のマフラーを巻くと、いつもの時間に駅に行った。そして、彼女が来るのを待った。
いつもより時間が長く感じられる。
彼女に何て言おう。
まずはお礼だよな。それからチョコレートトリュフが美味しかったことを伝えて。マフラーも気に入ってしてる、と。
俺も君のことが好きだ。名前を教えてくれる?
それからなぜ俺の名前を知っているのか聞こう。
彼女はどんな顔をするだろうか。
気が付けば、俺は彼女がしていたようにぼんやり線路を見ながら、予行演習を頭でしていた。
だが、彼女は時間になっても駅に現れなかった。
どうかしたのだろうか。
一本電車を見送って待つ。二本目の電車も行った。三本目の電車が入ってきて、俺はもしかしたらと考えた。
彼女は風邪でも引いたのだろうか。
いや、昨日の今日でそれは考えづらい。
彼女は。俺に会うのを避けた? 言い逃げ?
そんなこと。
彼女は俺にどうしてほしかったのだろう。自分の気持ちを伝えればそれでよかったというのだろうか。
俺はまいったな、と頬を人差し指でかいた。
さて。どうしたものか。
翌日も俺は数本の電車を見送って彼女を待ってみたけれど、彼女は来なかった。
じゃあ少し早めの電車に乗っているのかと、数本前の電車の時間にも駅に行ってみたが、彼女はいなかった。
本格的に避けられている。
あんなにルーティンにこだわっていた彼女だ。時間を変えることは彼女にとってどれだけ勇気がいたことだろう。
それだけ俺に会いたくないってことか。
俺は彼女のいない駅でため息をついた。
俺の返事に嬉しそうな笑顔になる彼女を想像していたのに、とんだ妄想だった。
毎日駅に行けば会えた彼女。
数日彼女の姿を見られないだけで、禁断症状のように彼女の色々な表情が頭の中を巡る。中でも、初めて会ったときの泣き顔が何度も。
これは重症だ。
彼女は平気なのか? 俺に会わなくても。俺が好きだというのに?
俺はこんなのは耐えられそうにない。
現実の彼女に会いたい。
季節は三月になっていた。
君が避けるなら俺は否が応でも会ってやる。
俺はホワイトデーに勝負をかけようと考えた。
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