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*** 「おにぃ……? え? ちょっと何してんの?」  寝ぼけ眼の紗代が、俺の姿を認めて目を擦って驚きの声をあげた。トイレにでも起きたのだろう。 「歯磨き」   俺は歯ブラシを動かす手を止めずに答えた。 「まだ五時前だよ?」 「ああ。まあ、ちょっと事情があって」 「昨日買い込んでた大量のお菓子とかんけーあんの? 今日ホワイトデーだもんね」  さすが紗代は鋭い。 「ある」 「ふうん。よくわからないけど、おにぃ、報われるといいね」  紗代の言葉に、俺は手を止めた。 「ああ。ありがと」 「まあ、ダメでも紗代がまたチョコクッキー作ってやんよ」  珍しく可愛いことを言ってくれる。 「なんだ、紗代もうまくいかなかったのか?」 「まさか。紗代が振られるわけないじゃん」 「そりゃそうかもな」 「いってらー」 「おう。行ってくる」  まだ暗い中、俺は家を出た。三月半ばとはいえ、朝は冷える。すっかり首に馴染んだマフラーを巻いて、俺は早足で駅に向かった。手にはスクールバッグと、大きな紙包み。  彼女が何のお菓子が好きかわからなかったから、キャンディ、マシュマロ、グミ、クッキーととにかく美味しそうに見えたものをすべて買い込んだ。  これで会えなかったら俺は馬鹿みたいだ。  自分がこんなことするキャラだとは思わなかった。  転校したとか、入院しているとか、小説のような展開はやめて欲しい。俺は今日何としても彼女に会うんだ。
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