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俺たちは何本もの電車を見送りながら、会えなかった時間を取り戻すように話をした。
「このマフラー、気に入ってるよ。それから、チョコレートトリュフ、すごく美味かった」
「よかった。砂糖をもう少し入れようか迷ったんだけど……」
「俺は甘ったるいの苦手だからちょうどよかったよ」
ずっと見ていたのに話すことができなかった日々が嘘みたいだ。俺たちはなんて遠回りをしたんだろう。
「何度か失敗したんです。でも喜んでもらえたのなら、作ってよかった」
彼女が笑うと俺も笑顔になる。
「君も失敗したんだ? 妹みたいだ。俺、妹がいるんだけど、毎年その失敗作を食べる係で」
「紗代さんも失敗を?」
彼女の言葉に俺は思い出したように、
「そうだ、なんで俺の名字も、妹の名前も知ってんの?」
と尋ねた。
「中学でも笠原兄妹は有名だったから。美男美女の仲良し兄妹って」
「中学?」
「そう。私、笠原君と同じ西の宮中学だったんです」
「そうだったんだ! ごめん気づかなくて」
「とんでもない! 違うクラスだったし、私は目立たないし」
「でも、剣道部だったなら気づいたと思うんだが」
俺の言葉に彼女は、
「私、中学のときは剣道してなくて」
と言った。
「私、部活入ってなかったんです。でも、私の友達が笠原君のこと好きで、一緒に剣道の試合を見に行ったことがあるんです」
そこまで言うと、彼女は過去を思い出すように遠くを見た。
「すごかったなあ。笠原君。無駄な動きが全くなくて、繰り出される技は鋭くて。私、剣道には興味がなかったのに、自分もしてみたいってあのとき思ったんです」
「じゃあ、高校から始めたの?」
「はい。こないだは恥ずかしいところ見られちゃった」
彼女ははにかむように笑った。
「いや、上手い女子だなって思って見てたんだ。まさか君だとは思わなくてさ」
「そんなそんな」
「剣道をしてるときの君は別人のように生き生きしてた」
「生き生き……?」
「ああ。電車を待ってるときとは違う一面を見た気がした」
彼女は俺の言葉に少し考えるような顔になった。
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