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3
気がつけばセミロングの髪の女子を見ている。
彼女は西高生徒ではないのだから見ても仕方ないのはわかっているのに、ついつい目で追ってしまう。そして、当たり前だが彼女ではなくてがっかりする。
俺はまったく何をしてるんだ。
その日の朝も、家の最寄りの駅で電車を待っている間、セミロングの女子を見かけては彼女でないか確認していた。
世の中には数えられないほど人間がいるのだ。そんな簡単に会えるわけない。そう思っていたのだが。
「あ」
思わず小さな声が漏れた。
いや、まさか。
彼女かどうか見分けられる自信すらなかったのに。それなのに、俺はその女子が彼女であると一瞬で気づいた。
彼女は駅のホームに上がってきて、俺と反対側のほうに歩いていく。人の少ない場所まで行くと、彼女は足を止めて右肩のスクールバッグを一度かけなおし、線路のほうをじっと見つめた。
同じ駅だったのか。
心臓の鼓動が急に早まり、足のつま先から手先まで脈打つのを感じた。
彼女は俺に気づいていない。
それをいいことに俺は彼女を盗み見る。
彼女はやはり今日も制服をきちんと着ていた。
彼女は目を引くような美人ではないし、華やかさもない。けれど、清楚でおとなしそうな彼女が、痴漢の対象となるのは不思議ではないと思う。
線路に何かがあるのか、彼女はずっと線路から視線をそらさない。
俺は迷ったけれど、彼女のいるほうへゆっくりと歩き出した。俺の存在は痴漢にあった日を思い出させるかもしれないから、彼女に気づかれたくはない。だから、彼女から三メートルほど離れた場所で俺は立ち止まった。彼女は気づく様子もなく、まだ線路を見ている。真剣な目だ。俺も彼女を倣って線路を見てみたけれど、何も見つけられなかった。
何を考えているんだろう。
電車が来た。彼女が乗り込むのを見てから、俺は一つ前のドアから同じ車両に乗りこんだ。心配だったのだ。
彼女はドア付近ではなく、この日は長椅子の前の吊革に掴まって立っていた。俺はドアの前でそれを確認してなんだかほっとした。この日彼女に痴漢を働く輩はいなかった。
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