2章 浮気の予感

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「では、話は以上です。デスクに戻ってください」 私も立ち上がり、デスクに戻ろうとした時でした。 「よかったら、僕が息抜きお付き合いしましょうか?」 耳元で囁かれて、ビクッとする。 私の表情を見てニコっとする龍彦。 「では、失礼します」 龍彦の突然のお誘いとも思える一言と、ずっと冷静で淡々と喋っていたところからの変化に驚きを隠せない。 部屋に残された私は、しばらくぼーっとしていた。 さっきの“息抜き付き合いましょうか?”って…。 一瞬龍彦の言葉について行ってしまいそうになったけど、私には智則さんがいる。 息抜きをするなら、智則さんとどこか出かける方が楽しいもん。 他の男性と出かけるなんて考えられない。 「ただいま☆」 「おかえり沙絵。今日、大丈夫だったか?」 私が帰ってきた途端、先に帰っていた智則さんは駆け足でやってきて、心配そうな顔で私を迎えてくれました。 部下から、私のミスに関する報告が上がってきているのでしょうね。 「ちょっと、細見さんから呼ばれて面談したけど…」 「細見と面談?珍しいな。あいつが面談なんて」 智則さんは、龍彦のことをよく知っているのか、納得のいかなさそうな顔をしていました。 私が、龍彦がミスをした社員に面談をすることはないのか尋ねると、そういうことを今までしてきたことがないらしい。 龍彦は、同じ部署の部下がミスをすると、すぐにキレて嫌がらせなどをするヤバイ部分があるとか。 でも、龍彦は仕事が社内でもかなりできる方なので、誰も何も言えないそうで。 「いびられたりしなかったか?」 「ううん。なかったよ。だけど、すごい落ち着いて話を聞いてくれて、優しい感じだったよ」 「そうか。あいつのことだから、沙絵はターゲットにされてもおかしくないと思ったが…」 ずっと不思議そうに考える智則さんだけど、私は龍彦から嫌がらせは一切受けていない。 嫌がらせがなかったのは…もしかしたら、今日だけかもしれない。 明日にはされるかも…。 少し不安になってしまった私の顔を見て、智則さんは「仕事中になにかあれば、すぐに言いなさい」と言ってくれたんです。 智則さんの気持ちや配慮はとても嬉しかったけど…私がすぐに智則さんに報告をすれば、「社長の奥さんだからなんでも許される」と思ってしまう周りの目を気にしました。 社員さんの中には、そう思う人もいると思ったので。 「智則さん。嬉しいし心強いけど、会社に入れてもらっただけでも特別扱いみたいな感じだから、今はこれ以上智則さんの力を借りるのはどうかと思うの…」 「確かにな…よく思っていない人もいただろうな…」 「そうよ。だからこそ、今はこのまま頑張ろうと思うの」 子供を心配する親の目ような智則を見ると、これ以上仕事でミスをしたり、問題を起こしたりしないようにしなきゃと思った。
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