2章 浮気の予感

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龍彦の言う通り、仕事に私情を差し挟まず、目の前にある業務に集中することが一番大事。 「分かった。だが、無理だけはしないように」 「うん。ありがとうね。だけど、なんで細見さん、ずっと会社に置いていくの?」 私は率直に智則さんに疑問を投げかけました。 いくら会社で仕事ができるとはいえ、部下に対する扱いがパワハラみたいに感じられるところがあったので。 この質問がくることを分かっていたのか、難色を示しつつも、リビングでお茶を飲みながら、龍彦のことをことを聞くことができました。 「簡単にはクビにはできないんだよ。法律とかも色々あって。前にあまりに細見がミスをした部下をいびってた瞬間を録音されて、労基に訴え出た社員がいた時は本当に大変だった」 その段階でクビにするはずだけど…なぜしないのだろう。 なんとも言いにくそうな顔をしている智則さんですが、智則さんはゆっくりと話を続けてくれました。 「クライアントからは評判がよくて、細見でないと契約したくないというところまであるから、そう簡単に切れないんだよ。会社設立からずっと支えてくれてる社員でもあるから、なおさらね」 会社設立から一緒にやっているのなら、執行役員になっていてもおかしくない。 なのに、いまだに一部の部署のリーダー止まりってのも違和感があります。 おかしいなと感じつつも、会社内部の奥深い事だから、今は聞かないでおくことにしました。 ミスが多かったあの日以来、龍彦はやたら私の仕事をチェックしてくれるようになった。 部署全体で私のミスをカバーするようなことになってしまったので、本来なら他の部署…“窓際部署”に飛ばされてもおかしくないのに、私は飛ばされることなく龍彦のいる部署にずっといることになりました。 部署の空気はかなり重いし、仕事がしにくい感じはありました…。 それと、龍彦のこれまでの社員の対応と私とでの対応が違うので、どうしても差別的に私を見ているのかもと思うところも。 お昼休憩もミスを連発する前は同じ部署の女性社員とかと行ってましたが、今はずっとひとり…。 「やっぱり特別扱いされているのかな…」と考えながらランチをしていたところに、いつの間にか龍彦がくるようになったんです。 「お疲れ様です!…沙絵さん、最近いつもお昼一人ですよね」 「そうですね。誘ってもやんわり断られちゃって…」 龍彦は察したかのように、天井を見上げた。
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