第1章

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 百合(ゆり)は思う。これは一種の罰なのだと。  罪を犯したものには罰が必要だ。そして、それを理解しつつも黙認してきた自分も罰を受けるべきなのだと。 (いいえ、違う。……いっそ、罰を受けて楽になりたいだけ)  罰を受け、罪人になればいい。そうすれば、『彼』への不毛な想いを捨て去ることが出来るはずだ。  そうだ。それでいい。  自分自身にそう言い聞かせ、百合は自身が身にまとう着物の袖をぎゅっと握った。 「……さようなら、私の初恋の人」  きっと、もう二度と会うことはない。  行き場も告げずに、自分は彼の前から姿を消す。彼は情に厚い人だから、初めは自分の無力さを悔やむだろう。  でも、時が経てば傷がいえるように。百合のことなんて忘れて、美しい妻を娶る。  その際に自分は側に居ないほうがいい。だって、胸の中に燃えるような嫉妬が湧き上がるだろうから。  瞼を閉じれば、今までの記憶が頭の中を駆け巡る。楽しいことも、辛いことも。ずっと一緒。これからも、ずっと一緒。  思いあがって、彼の一番は自分だって。そう、思い込んでいた。  ――それが、《傲慢》なのだと。今の今まで、百合は気が付けなかった。
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