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八
それからというもの、私はフリマ強盗しようとした事を自首し、逮捕され一時勾留されたが、初犯とあり反省していることから数カ月で釈放した。フリマで得た売り上げは「娘さんが頑張って集めたお金です」と遺族のかたに渡した。
あのフリマ会場は、私の勾留中に文学のフリーマーケット会場になっていたようで、たくさんの本が自費出版されていた。しかし、驚いたのはそこだけではなかった。
「店長じゃないですか?お久しぶりです」
「あなたは確かあの時の転売ヤーさん!」
「嬉しいな覚えていてくれてたんですか。あれからしっかり反省しまして、俺も何か売ってみる事にしたんですよ」
「へえっ!」
転売ヤーを初めフリマ強盗や万引きしていたグループも心を入れ替え、警察に自首した後、売る側になったようだ。
「どんなの売ってるの?」
「これなんですよ、俺、小説書いたことなくて苦労したんですが、どうにか完結出来ました」
それは『フリ魔女したポケット』というタイトルの短編小説だった。表紙にポケットがついているのは珍しい。内容はとあるフリーマーケットで出会った女性販売者が、仲間と力を合わせて商品を工夫して売っていくというもので、途中に登場する強盗や詐欺師などと戦ったりもするようだ。これ数カ月前の私の事じゃない!
「あの時の事書いてあるのね」
「店長はとびきり美人に書いてます!」
「盛りすぎだっての、それで、どうして表紙にポケットなんかつけたのかしら?」
「手を入れて見て下さい」
私は恐る恐る表紙のポケットに手を入れてみる。モコモコしていて温かい、寒い時に読もうとすると表紙は冷たくなってしまうから、読みやすいように配慮してポケットを付けたのかもしれないと思ったが、ポケットの中には、紙が入っている。開いてみると『お買い上げ頂き有り難うございます。誤字や落丁があった場合、商品お取り替え致します』と書いてある。なるほど。ポケットには著者である販売者の気持ちが入っていたのね。ひょっとするとあの時、ポケットが飛ぶように売れたのもポケットの中には……
「それと店長には、教えて貰いたかったな」
「教えるって何を?」
「名前ですよ、だって初めてあった時教えてくれなかったから本には名前書けなかったんですよ」
「秋内早苗、それが私の名前よ」
了
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