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五
「お宅のお店、かなり儲かってるようじゃないですか?」他のお店の販売員が、私に声をかけてくる。
「お陰様でポケットが売れてます。お客様に感謝ですね」
「どうです? うちのお店と一緒に、儲けませんか?」
「一緒にですか?」
「今日の収入が倍になりますよ。得た利益はそちらが六、こちらが四の六四で山分けしましょう。ウィンウィンのフリーマーケットになると思うんですが」
お店をコラボして商売したいようだが、フリーマーケットのお店でコラボするなんて話し聞いた事がない。
「店長、魅力的な申し出じゃないですか?」
「是非、コラボさせて貰いましょう。ウィンウィンの商売になると言ってるんですから!」
従業員のみんなはここぞとばかりにコラボを推して来るが、私にはわかる。こういう儲け話はたいていが詐欺だ。
「折角ですがお断りさせて頂きます。商売のコラボを持ちかけてこちらのみんなが頑張って売っている利益を横取りするつもりなんでしょう。私はそういう事を一番したくないんです」
きっぱり断ってやった。
「残念です、後悔しても知りませんよ」
「いいんです。目先の利益より一生懸命働いてそれに見合った報酬を得たほうが私は嬉しい。喩えそれがどんなに少なくとも」
「わかりましたよ。それならこちらにも考えがあります」他店舗の販売者はスマホを取り出し、SNSを開いた『このフリーマーケットの販売者は万引き犯や強盗などを従業員として雇っている』『そればかりか態度も粗悪だし、買うのを止めよう』と不買運動を誘発するコメントを書き込み、写真に撮った。
「こちらのお店にクレーム付けたついでに写真まで撮って拡散するつもり?」
「ネットで拡散されたくなければうちとコラボ師で下さい」
「プライバシーの侵害です。信用毀損ですよ。それ以前に偽計業務妨害ですけどっ!」
「なんとでも仰って下さい。そちらがそういう商売をしている以上、こちらは私人逮捕することだって出来るんです」
「脅迫ですか。しかしながら私は誰になんと言われようとコラボするつもりはありません。お引き取り下さい!」
客も良心的な人ばかりとは限らないが、お店も良心的なお店ばかりとは限らないということか。フリーマーケットの現場もシビアだ。
「じゃあ、この店、荒らしちゃいますね」他のお店の販売者は、手当たり次第にお店の商品を破壊しに取りかかる。
「店の大事な商品を壊さないで下さい。あなたたちは商品を買って頂いたお客さんの笑顔まで壊すつもりですか? だったら許しませんよ!」 「店長の言うとおりだ、俺がいうのも何だが作った人の苦労も考えろよなっ!」
店の前で店員と詐欺師たちが乱闘騒ぎを始めてしまう。
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