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六
詐欺師を撃退して、今気よくお店の商品を売っていくとすっかり日がくれかけていた。他のお店の販売員たちは店じまいの支度を始めている。
「今日一日は、本当にお世話になりました店長。転売するよりも自分で作ったものを売って見ることの大変さや楽しさが、実際やってみるとよくわかりました」
転売ヤーだった男性が私に頭を下げてきた。
「こちらこそ有り難う。私人に何か教える立場でもないんだけど給料渡さないとね」
「給料はいただけません。それに『ボランティアでいい』といったのでボランティアとして協力しただけですから。それではっ!」
「店長、バカなことしようとして本当に申し訳なかった。許して貰えないだろうが、全うに働いて生きていこうと思う。それが店長に対するせめてもの償いだ」
フリマ強盗だった男性は、お店を荒らされるとどんな気持ちになるか身に沁みてわかってくれたようだ、頭を下げてお店から離れて行ってしまう。
「俺たちも万引きはやめます、こんな俺たちでも雇って下さって感謝しています。有り難うございました!」
「こちらこそ、お店手伝ってくれて有り難う!」
「店長さん、フリーマーケットのお仕事とても勉強になりました。私も何か作って売ってみたいです。ところで明日も店を出しますか?」
ふと技能実習生に聞かれた。
「今日限りだから、みんなとは今日でお別れね。一合一会ってこと」
お店に訪れる人が、明日や明後日に来てくれるとは限らない。どんな相手でも一合一会、フリーマーケットに限らずお店はそういう場所だから、お客さんを大切にする。なんだか私が勉強させられているようだ。
「あの、御苦労さまです。あたし、ずっと見てましたよ」
店しまいの支度をしていると、背後から女性に声をかけられ、ドキリとする。本物の販売者が自分の店に戻って来てのだ。
「ごめんなさいっ! あなたの店なのに勝手に商売しちゃって。折角、時間かけて作ったものを楽しく販売しようとする気持ちも権利も踏みにじってしまいました。通報して下さい。どんな罰でも受けますっ!」
何を言っても悪いのは自分だ。警察に捕まっても文句は言えないと、振り向き様に何度も頭を下げて謝罪する。
「寧ろ、あなたには感謝しているんですよ。頭を上げて、謝らないで下さい」
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