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『さっきの小説サイトだけどさ』 話題が戻ってしまった。 『どんなの読んでんの? 本読むのとか好きそうだもんな。 書いたりもしてんの?』 横川くんにとっては普通の質問でも、私は心臓がバクバクしてしまう。 『か、書いてはいないよー。 読むの専門。 色々と読めて無料ってありがたいよね。』 動揺を悟られないように返事出来たかな。 別に書いているのがバレたわけじゃないし落ち着こう。 しかし、横川くんが小説サイトを知ってるとは意外。 ガッチガチの理系人間だと思っていたから…。 『横川くんがこういうの知ってるとは意外。』 『そうかな? 本読むの好きだよ。 携帯で読んだりできるの、手軽でいいよな。 有名な作品より面白いのあるし。 お気に入りの人とかいんの?』 今まで感じていた横川くんとのギャップと共通の話題に心が弾んでくる。 『いるいる! この‘機械人間’っていう人のがね…』 と言ったところで横川くんがお箸で掴んだトンカツを落とした。 つけ皿に落ちて、ソースが飛び跳ねる。 横川くんでもこんなことあるんだ。 またちょっと親しみが湧く。 『大丈夫? 作業着でよかったね。』 『お、おう…。』と言いながらおしぼりでいそいそ拭いている。 機械人間さんのプロフィールページ探して横川くんに向けた。 『これこれ! 今ね、この人の作品に夢中なの。』 『…へー。 どんな感じなの?』 『都会の片隅にいそうな男女の恋愛の話が多いの。 冷たい文体なんだけど、どこか温かくて。 最後は何となくのハッピーエンドなの。 そのサジ加減がたまらなくて。 あと、エッセイが面白いよ。』 たまたま読んだ機械的な文章で不思議に温かい物語を描く人。 その作風に魅了され作品をすべて読み漁った。 そして最後にエッセイに辿り着いた。 恋愛観、死生観から仕事への思い、過去の事、これからどうやって生きていくか。 物語と同じく淡々と書いてあるが芯の強さとやはり温かさを感じる。 共感と尊敬が入り混じる。 ギリギリ素性がバレないようにしているが、30歳前後のサラリーマンっぽい。 こんな内面を持ってる人ってどんな人なんだろう。 会ってみたい。 エッセイのページが増えるごとに私の思いも募っていく。 そう、私は機械人間さんに恋をした。 実際に会うことなんてできるわけないとわかっているけど。 『エッセイ読んでると普通のサラリーマンっぽいの。 働きながら書いてる人ってたくさんいるのね。 どんな人なのか会ってみたいなー。』 私も働きながら書いてるしね。 『あー…。そうなのかな。 読んでみるよ。』 自分から話題を振っておきながら歯切れの悪い返事をする横川くんにイラッとする。 機械人間さんならそんな返事はしないだろうなと想像だけで比べてしまう。 一応横川くんのおすすめも聞いておくか。 『横川くんのお気に入りはどんな感じ?』 『俺はね…』 そう言いながら検索し、見せられたのは‘月夜行’のプロフィールページ。 …私のプロフィールページだった。
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