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社員食堂の窓際に座って日替わり定食を食べながら携帯で小説を書くのが日課だ。
子どもの頃から本を読んでは空想にふけるのが好きだった。
机の下に潜りおもちゃの宝石を並べて頭の中で物語を作っていた。
それは28歳になった今も変わらず、満員電車に揺られながら空想の星へ飛び立ち自由自在に世界を色づける。
この世界は私だけのものだ。
誰にもわかってもらえなくて構わない。
そう思っていたのだけど、好きなドラマの原作が載っている小説サイトに興味が出た。
自分の世界を文字に書き出してみたら楽しくてたまらなくなった。
わかってもらえなくても構わないと思っていたけれど、読んで感想をもらえるのは思いのほか嬉しいものだった。
リアルな恋愛からはしばらく遠ざかっているけれど、今はこちらの世界が生きがい。
区切りの良いところまできたので、保存してトップページに戻ったところで後ろから声を掛けられた。
『紺野もその小説サイト見たりするんだ?』
驚きすぎて変な声が出た。
『ぎゃぅ…!』
自分のプロフィールページでは無くトップページでよかった…。
横川くんに小説を書いていることなんか知られたら何を言われるかわからない。
『ちょっとー!
携帯覗くとか良くないよー!』
『ごめんごめん。
たまたま見えちゃってさ。』
なんて平謝りしながら私の前に座る。
相変わらず無愛想でオレ様な感じ。
仲良くなってきたとはいえ、やっぱりどこか腹立たしい。
話題を変えよう。
『昨日の報告書のチェック終わったよ。
相変わらず簡潔でわかりやすいね。』
同じ技術部で横川くんは技術者として実験データを取ったり新しい製品の開発に携わっている。
アシスタントの私はみんなから上がってくる報告書の誤字脱字をチェックして書類を整え、社内に配布する。
彼が支社から移動してきた当初、無愛想で態度がデカくて苦手だった。
でも彼が書く報告書は簡潔な文章で部内で一番わかりやすい。
それに惚れ惚れとしてしまい、印象が変わった。
頭の良さが滲み出ていて、この人には敵わないと思った。
『完璧だったろ?』
トンカツを摘まみながらニヤリとする。
…やはり何だか腹立たしい。
そうだ!
『送り仮名がひとつ間違えていたから直しといたよ。』
『え、マジで?!』
今回は私の勝ち!
勝手に勝負して勝手にほくそ笑んだ。
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