社会科見学で的野さんと話したこと

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社会科見学で的野さんと話したこと

「社会科見学で的野さんと話したこと」6年2組 平原ハルヒ 私が社会科見学に行って一番印象に残ったのは、新国会議事堂です。 スカイツリーに行ってそれから水族館を見てから、私たちは新国会議事堂に行きました。見学した所は全部楽しかったけど、一番はやっぱり新国会議事堂だと思いました。去年できたばっかりの新国会議事堂は東京臨海副都心のお台場にあります。このあたりは昔、海だったそうです。埋め立てをして人が住めるようにした場所だそうです。 駐車場でバスから降りた私たちは、海をバックに建つ白くて真四角の新国会議事堂に声を上げました。 「かっけー」 「でっけー」 男子は大はしゃぎです。村田君は。 「なんか巨大な豆腐みてえ」 と言いました。私もその通りだと思ったので、同じ意見の人がいてうれしかったです。私はこの建物に空からお醤油をかけるところを想像してちょっと面白い気持ちになりました。みんなが食べられる巨大な冷奴です。 私たちはそのまま、新国会議事堂の前で3時になるのを待ちました。その間に他の学校の小学生や中学生、高校生たちが集まってきました。旗を持ったガイドさんについて歩いている観光の人たち、多くの外国からの旅行者も集まって、みるみるそのあたりは大変な人だかりになりました。 いよいよ3時まであと一分になりました。 電光掲示板は、59、58、57,56って一秒ずつ数が減っていきます。 私たちは声を合わせてその数を読み始めました。 「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1」 そして3時きっかりになるや、なんか宇宙っぽい音楽とともに、静かに新国会議事堂は変形を始めました。新国会議事堂は、国際的な建築家ホップ・松本氏の設計による可変式建築の最先端の技術を用いたものだそうです。私たちは、少しずつ形が変わっていく新国会議事堂に目を見張りました。 「ハルヒ。なんか雑巾絞ってるみたいだね」 紗季ちゃんが言いました。私もそう思いました。 建物は静かに上下に回転し、ついに私の大好きなあられ「ひねり揚げ」のような形になり変化を止めました。電光掲示板に表示が出ました。 「スタイル1 ねじれ国会」 そうです。これが私たちが生で見たかった「ねじれ国会」でした。感動。 やがて再び建物は形を変え、なにやら手前がめくれ上がった形になりました。スカートがめくれたような形です。電光掲示板にまた表示が出ました。 「スタイル2 めくれ国会」 すると、建物から今度は少し嫌な臭いがしてきました。表示が出ました。 「スタイル3 くされ国会」 そうこうするうちに今度は白かった建物が色を変え、なんだか錆びだらけの色合いになりました。 「スタイル4 さびれ国会」 あ、今度は建物が真っ二つになっちゃった。 「スタイル5 やぶれ国会」 建物はどんどん姿を変え、そのたび電光掲示板にはそのスタイルが表示されました。「スタイル6 よじれ国会」「スタイル7 はぐれ国会」「スタイル8 こすれ国会」「スタイル9 はずれ国会」「スタイル10 しゃくれ国会」。 そして最後に建物は少しずつ色を失って、遂に消えてしまいました。後ろの海が見えるだけです。建物はどこに行ったんだろう。 「スタイル11 まぎれ国会」 見事さに声を失っていると、的野さんがすぐそばでつぶやきました。私は今まで的野さんとあまりお話をしたことがなかったので少し驚きました。 「トリックだよ。建物はどこにも行ってない。後ろの景色と同じ外観になって人の目をごまかしてるだけ。平原さん、トリックアート観たことある?それとおんなじ」 それなら私も観たことがあります。目の錯覚を利用した面白い美術作品。 「国民はこんなものに騙されちゃだめなんだよ、平原さん」 「え?」 私は的野さんが何を言ってるのかわからなくて説明してもらいました。 「この国には元々ちゃんと国会議事堂があるでしょ。ホントはこんな建物必要じゃなかったんだよ。それでも、国家予算の700億円をつぎ込んでこの新国会議事堂を作った。なんでだと思う?」 「わかんないよ。そんなの」 「国民の目を、国会の中より外に注目させておくため。ホントに重要なのは国会議員たちが審議して決める法案や予算案なのに、国民に知れては都合の悪いことばかりしてるもんだから、その目を外観にそらしたんだ。ほら、大人気でしょ、これ。大規模なイリュージョン。こんなペテンに騙されてるんだよ、国民は」 「ああ」 「この建物の建設計画そのものが、そういう意味ではトリックだね」 それは学校では教えてくれなかったことでした。私は的野さん、すごいと伝えました。的野さんはちょっと照れながら言いました。 「私の将来の夢はね、国会議員になること。それで、この国をよくしたい。一部の人間だけに財や幸せが偏る世の中じゃなくて、誰もが豊かに幸福に暮らせる国を作りたい」 「えらい。的野さん」 私はすっかり的野さんに感心してしまいました。 「的野さんが国会議員に立候補したら、私絶対投票するね」 「あはは。ありがと。平原さんが支持者の第一号」 「ね。このこと、社会科見学の作文に書いていい?」 「いいよ。みんなの前で読むんだよね。うれしい」 それから私は毎日、的野さんとお話をしています。 今は的野さんではなく、ミワって呼んでます。的野さんも私のことを平原ではなくハルヒって呼ぶ。 新国会議事堂の見学で、私には親友ができました。 終わり
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