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都内某所
とある賃貸マンション3階の1室
あらっ?もうすぐ10時じゃない……まだ帰ってこない……
残業なのかな?
◇
「ただいま。」
あっ、ようやく帰ってきたわね。
「遅かったじゃない。心配していたのよ。」
「今日は早く帰れると思っていたら、端末がダウンしちゃって……サイテー。」
「そうなの?
大変だったね。」
「あぁ、疲れた……」
「お疲れ様。
ご飯、食べる?」
「先にお風呂に入っちゃおう……」
「それがいいわね。
溜まったストレスなんて、お風呂で洗い流しちゃえばいいのよ。」
部屋着に着替えた紗佳は浴室に姿を消した。
そして、バスタブにお湯を入れると、リビングに戻って来た。
「あら、紗佳ちゃん。
どうしたの?
そんなに怖い顔して近づいて来て。
もしかして、私の右腕?
やっぱり気になる?
今日一日、ずっとズキズキと痛いの。
どうしちゃったのかしら?」
◇
紗佳は、リビングのサイドボードに置いている50㎝位の大きさの古い人形を覗き込んでいた。
淡いピンク色のドレスを身に付けているフランス人形。
瑠璃色の瞳に肩まであるブルネットの巻き髪。
ただ、ドレスはところどころ綻びて、シミや汚れも目立っていた。
「お母さんの形見のフランス人形。
もう古いから、右腕が肩から取れそうになっている。
この人形処分したら、天国のお母さん怒るわよね?」
紗佳がそうつぶやいた時、フランス人形の瑠璃色の瞳が一瞬だけ睨むように紗佳を見上げた。
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