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 彼女を乗せ、潜水艇が海を潜る。  きらめく魚群を抜け、目指すのは表層の遙か奥。潜水するマッコウクジラを追い越し、沈没船を横目に、光の届かない深海の世界へと進む。  彼女には、探しものがあった。 ──絶対に見つけないと。  不意に、金属のひしゃげる音がした。身体に圧力がかかる。潜水艇の耐圧設計は万全なはずなのに。  潜水艇はみるみる水圧に押しつぶされ、彼女の身体もろとも縮んでいく。  手足が動かない。肺が潰れ、空気の泡が口から溢れる。それを引き戻そうと、彼女は大きく息を吸い──  自分の呼吸音で、西田(にしだ) 茉莉(まつり)はハッと目を覚ました。夢から急浮上した彼女の感覚を、周囲のざわめきが堰を切ったように一斉に刺激する。  茉莉の身体は、満員電車の座席の端で荷物を膝に抱えて座っていた。夢で感じた圧力は、電車の減速による慣性力だったらしい。  ざらついた車内放送が、間もなくの停車を告げる。次は彼女の降車駅だ。  茉莉はそっと息を吐き、呼吸を整えた。いつの間にか、膝上の鞄から魚のマスコットがはみ出していた。経年劣化で少々色()せた、紫と水色のグラデーションのラメ生地のぬいぐるみ。それを、そっと鞄の中に隠すように戻す。  仕事が夢にまで侵食したのは初めてだった。アサインされた無人潜水艇開発のプロジェクトがようやく一段落し、今日は久し振りに定時で帰れた。その解放感で、疲れが出たのかもしれない。  電車が止まる。人々が、イワシの群れのように車両出入口を通過する。  茉莉は、網をすり抜ける魚の身のこなしで、群れの最後尾について電車を降りた。
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