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 茉莉(まつり)は、目を丸くして店を眺めた。  彼女にとっての魚屋は、最近ならスーパーやデパ地下など、主に商品が並ぶだけのコーナーだ。今は遠く離れた地元にも魚屋は多くあったが、いずれも威勢の良い呼び込みに、乱雑に置かれたトロ箱の山、魚介の生臭さが売りだった。  目の前の店は、そのどれとも違う。店先も綺麗で、でもよそよそしくない。道行く客は次々と店に入り、ホクホク顔で出てくる。行列こそないが、閉店近くの時間帯でも客足は途切れない。  茉莉に、ここで買い物をする意思はない。けれど、子供の頃から海産物を見るのが好きな彼女にとって、そんな客の表情は大いに興味をそそるものだった。  少しだけで良い、一体どんな商品を扱っているのか見てみたい。  うずく好奇心に屈し、茉莉はそっと青い暖簾(のれん)をくぐった。  子供にとっての玩具売り場。茉莉にとって、店内はそう呼ぶに相応しいものだった。少しだけ、などという考えはあっという間に頭から抜け落ち、茉莉は目を輝かせて商品に見入る。  ショーケースの丸魚や切り身はツヤツヤで、見るからに美味しそうだ。海老や貝類も見栄えが良い。商品の間に空きが多いのは、既に完売した品が多いのだろう。干物や加工品も充実している。  店員は客一人ひとりの要望や考えを良く聞きながら、調理や保存方法、商品の提案もする。とはいえ、店内は決して(やかま)しくなく、程よい活気、見物客にも居心地の良い雰囲気に包まれていた。  これは、眺めているだけで十分に楽しい。そう思った茉莉が、ふと目をやった先。  ショーケースの一角に、珍妙な魚が鎮座していた。  体長一五センチメートル程の、サヨリに似た形の魚だ。ただ、全ての(ひれ)が体に対して不釣合いに大きい。トビウオのような進化とも違う様子だ。しかも、体色は蛍光ピンクと黄色の大きな市松模様。腹には、臙脂色の梅紋のような模様まで入っている。  こんなド派手な魚は、ハナダイの仲間にもいない。誰かの描いた想像上の魚のようだが、ここは魚屋で、並んでいるのは絵ではなく、紛れもないナマモノだ。 「それ、気になります?」  しげしげと見知らぬ魚を見つめる茉莉に、頭上から声がかかった。
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