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それから四日。
風格好を変え、道順も変え、早稲田から馬場下、高田、江戸川沿いと歩き回ってみたが、村垣の言うような怪しい餌差に出くわすことはなかった。
「この辺に戻って来るっちゃあ限らんよなあ」
高田富士の濃い緑を眺め、呟く。
むしろ同じところに留まっている方が珍しい。本来の餌差ならば、雀に警戒されぬよう、毎日場所を変えて狩るのが普通だ。
前日には『怪しい餌差』の話を提供したという馬場丁の老人を訪ねてみたが、村垣から聞いたこと以上の話は聞けなかった。
――「遠目でわからねえしよう、それにこの辺りで敢えて鳥を獲るってえことは、御公儀の餌差と思うじゃねえか」
爺さんの言うことはもっともだ。禁じられた場所での鳥刺しなど、町方の雇われ餌差なら、まずやるべきことではない。見つかったら厳罰。当然餌差札もはく奪されるからだ。
――「おかしいと思ったのはその後じゃ。見廻りのお役人が歩いてきてなあ。んだが、姿を見た途端、慌てて引き上げたんでさ。それで、こいつぁ、まともな餌差じゃねえってえ、思ったんじゃ」
それは確かに怪しい。
そう思うが、このままこの辺りを歩き回ったところで、何の手がかりもつかめないような気がして来た。うっそうとした水稲荷の杜の陰などもくまなく歩きまわってみたが、怪しいと思われる隠れ家的な小屋も、そう言った人物も発見できずにいた。
石切橋を渡ったところで、道の左右のどちらに向かうかしばらく迷っていたのだが、思い立って、川沿いの道を城に向かって歩き出した。
ずいぶん夜明けが早くなったと、水面の色の変化を見ながらヒヨドリの声を聞いていた。しばらく川風を感じながら歩いていたが、明け六ツの鐘が響く頃には、どんどんの音が聞こえて来た。
牛込御門の北側、江戸城の外堀にぶつかる堰の辺りは、堰から流れ落ちる水の音から『牛込どんどん』などと呼ばれている。
どんど橋とも呼ばれている船河原橋に差し掛かった時、宗次郎の耳に男の叫び声が届いた。
川下の方角である。
とっさに橋を渡り切り、声の聞こえた川岸へと走る。
「おおっとすまねえ!」
慌てていたせいで、同じように声を聞いて駆け付けたであろう男とぶつかってしまった。体格の良い若い侍である。
「いや、こちらこそ」
お互い、詫びもそこそこに、声の上がった方を見ると、すでに人垣ができ始めていた。
「人が流れてきてよう」
船頭が舟の下を指している。
「女じゃねえか」
さっき宗次郎にぶつかった若侍が、船着場へ飛び降りた。宗次郎もそれに続く。
宗次郎の目に映ったのは、濡れそぼった紅い花だった。
ハッとして目を凝らすと、それは女ものの着物で、船着き場の柱に引っかかり、流れに浮き沈みしながら揺れていた。
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