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「カスミ網だ。無双網ならもっとよく捕れるが、あれは仕掛けが面倒でね、あたしゃ、もっぱらこれだ」
言いながら、男は手にした網を広げていく。
確かに男の言うとおりであるが、網に絡まった雀は弱りやすく、餌鳥の捕獲としては不向きなのだ。それ以前に、鳥の警戒心を煽るため、御拳場近隣での網や銃を使った猟は禁じられている。
(つまりこいつが……)
男は自慢げにその得物の利点を説明しながら、準備を進めている。
「そこで見ていろ」
カスミ網を手にしたまま畑まで下りていくと、雑穀を撒き始めた。そして鳥寄せの笛を吹く。すると撒き餌に気付いた雀が数羽、近寄ってきた。一羽が食い始めると、次々と飛来して、畑はたちまち雀の群れに覆われる。
その群を目がけて、網が広がった。
「投網か!」
端に錘の付いた網が、地面を啄んでいた雀はもとより、飛んできた雀までも絡め獲った。
男と共に、宗次郎も網の落ちた場所へ駆け寄る。
絡め獲られた雀たちは、諦めたように大人しくなっている。暴れているのは足や羽が折れて傷ついた雀だ。
二十羽、いや、少なくともそれ以上はいるだろうが、このうち何割が生餌として生き残るのだろうかと、宗次郎は疑問に思う。
「これ、御鷹の餌として売るんだよな」
死にそこないの雀を手にして、男に問う。
「まあ、いくらかは死んじまうが、それでも竿でちまちま獲るよか仕事が速い。すなわち、儲かるってこった。ちなみに、こいつらは食用としても売れる。死んでも損はない」
生餌として使えそうにない雀も一緒くたに、腰の籠へと入れていく。なるほど、大猟を予測してなのか籠も大きい。
ぼんやりと観察していると、男が尋ねてきた。
「あんた、公儀の、じゃねえんだろ。ここらでの鳥刺しは禁じられているんだからよ」
御拳場での鳥刺しはもちろん、寺社敷地や大名屋敷への立ち入りも、町人餌差には許されていない。
「ああ、鳥屋の雇われだ。それにしても、鷹場近くの鳥は捕えやすいな」
宗次郎は男に話を合わせた。
確かに狩りを禁じているだけあって、御鷹場の鳥には警戒心が薄い――御鷹場で雀を追ってみて、気付いたことの一つだ。
「そういうこと。しかし、鳥見役人には気をつけろ」
男が警戒するそぶりで周りを見渡した。そして声を落とす。
「どこの鳥屋に雇われているかは聴かねえが、真面目に問屋に売るよか、もっと儲かるやり方を口添えしてやろう。お前さんの腕なら、今よりもうんと稼げるぜ。どうだ、乗らねえか」
男が片眉を上げると、一緒に口角も上がった。
「乗った」
宗次郎の答を聞くや、ついて来いとばかりに、人差し指を折り曲げ、スタスタと歩き出した。
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