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◆chapter 3 A3 ジン・セルリアン
私は、ジン・セルリアン。
A3のひとりで、エレーナと天雀とは同期生だ。
現在は魔法省の立法部門に在籍している。
魔法使いの必須スキルとされる『ほうきでの飛行』の規定を改正するためにここに入った。
当然、一生涯の恩師であるアリスタ・ガーベ嬢のためだ。
ゆくゆくは私が彼女のとなりに立つのだ。
伴侶として。
彼女とのはじめての出会いは、私が法律家を志した十代前半のころだった。
セルリアン家は法律家が多かった。
法曹界だけではなく、法律に関係する職種なら大から小まで、ありとあらゆるところにその名を見ることができる。
身近なところだと、登記関連だろう。
私の父は弁護士で、警察絡みの案件以外にも個人間の争いや、ギルド関係の訴訟も請け負っていた。
あるとき、授業中に起きた魔力暴走についての相談が持ち込まれた。
相談者は魔力暴走を起こしてケガをした生徒の保護者だった。
学校側は生徒が教師の指示を無視したために起きた事故だと主張した。
しかし、生徒側は教員の指導どおりに行ったと主張した。
双方の主張は真っ向から対立し、裁判は泥沼化する。
生徒はふだんから教員の指示を無視することが多かったため、"今回も"という見方が強まり、旗色はどんどん悪くなっていった。
けれど、父は生徒の主張を信じて疑わなかった。
『"——たしかに、簡単な魔法の授業では教師のいうことを聞かなかったこともあったが、あのときの授業はかなりの魔力を消費するから、慎重に行うようにという事前説明もあった。だから、気をつけないと、と注意してやった"と。たとえ、ふだんの行動がどうであれ、今回もそうとは限らない。判断の材料に使うとしても、先入観を持って起きたことを見てはいけない。法律化家を目をくもらせては冤罪を作ってしまう。よく覚えておくんだ、ジン』
父はそういったが、私も生徒側に非があった可能性のほうが高いと思っていた。
こんな勝ち目のない案件なんて、今のうちに見限っておくべきだと。
父は教員をはじめ、多くの学校関係者にも聞き取り調査を行った。
だが、だれも証言しなかった。
生徒側にとって有利になる証言は得られなかった。
それもそのはずだった。
魔力暴走が起きたとき、魔法学校の総長が教鞭をとっていたからだ。
理事長と学長の両方を担う総長には、雇われの身である教師はおろか、職員はだれも逆らえなかった。
このままでは生徒の主張は認められず、泣き寝入りするしかない。
そしてそんな生徒側に加担したと、父の弁護士としての立場も危うくなる。
私の法律家になる道も閉ざされてしまうだろう。
自分の人生から光が消えていくのを実感するしかないときだった。
アリスタ・ガーベが現れたのは。
「生徒の証言は事実です。証拠もあります」
そういってアリスタ嬢は当日の授業の映像を父と私の前で表示させた。
【時間の巻き戻し】
【隠蔽魔法の有無の精査】
【解除を阻害する魔法の消去・・・・・・】
列挙が追いつかない量の魔法を彼女はなんなく操作していた。
何重にもかけられた高度魔法を突破し、再現された証拠。
魔法使いとしての実績のある父でさえ、現場を時間退行魔法で調べようとしても強い魔力防壁で追えなかったというのに。
圧倒される父と私の目に、総代と生徒の姿が飛び込んできた。
生徒は指示通りに魔法を操作していた。
総代は愛人との通信中。
「もっと早くおうかがいしたかったのですが、確実な証拠を抽出するのに手間取ってしまいまして」
「ですが、あなたの魔法は高度なものばかりで。ここまで扱えるならそんなにお時間がかかるとは思えないのですが」
「簡単に解除魔法を用いた段階で当日の場面を保存することはできたのですが、それが本物ではなくダミーだったんです」
「ダミー?」
そう聞き返す私にアリスタ嬢は吐き捨てるように言った。
「ええ。総代は自身の過失を隠蔽するために、何百ものトラップをしかけていました。万が一、時間退行や再現系の魔法で破られた場合、真実をつかまれないために。授業ではいい加減なことをするのに、保身のためには必死になる。同じ教育者としてあきれます」
「もしかして、あなたは教員試験を最年少で合格したアリスタ・ガーベですか?」
「はい。あれ、ワタシ名乗っていませんでしたか? 大変失礼いたしました。精査に精査を重ねて、これこそ本物の真実だと確信するまで精査していたので、見つけた興奮でランナーズハイ状態になっていました」
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