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◆Chapter 2 A3 エレーナ・グレイス
私はエレーナ・グレイス。
"A3"のひとりです。
アリスタ先生の1番弟子、といっても過言ではありません。
残りのふたりはおまけですわ。
アリスタ先生とふたりきりで暮らすことが私の夢ですの。
一生、アリスタ先生についていくと誓ったのですわ‼
アリスタ先生は私を救ってくださいました。
アリスタ先生との出会いは忘れもしませんわ。
入学試験の実技審査のときです。
私は、はじめて惨敗しました。
グレイス家は代々官僚の家系で、私自身も幼いころから、曽祖父母・祖父母・両親に期待をかけられて育ちました。
魔力の強い一族でしたので、生まれつきの才能や環境には恵まれていました。
勉強に費やす時間も、必要な道具を入手することも、学びを得ることも、魔法使いとしてその名を残すことに何不自由ない環境でした。
当然、自我は肥大します。
思春期突入時には、自分は最強の魔法使いだと思うくらいには。
でも、そんな傲慢な自我は魔法学校入学試験のときに木っ端みじんになりました。
「エレーナ・グレイス。エリート家系で有名なグレイス家の長女だそうですね。隙だらけなので加減をしたのですが、ワタシが最大魔力を出していたら、あなたは素粒子に還っていたでしょうね」
実技試験会場の床で私はへたりこんでいました。
そんな私を静かな眼差しで見下ろしてくるのが、当時、実技試験監督官だったアリスタ先生でした。
(こんな一介の教師に負けるなんて)
そのときの私は、いったい何が起きたのかすらも理解でいていませんでした。
ちゃんと攻撃魔法を放ったのに。
ちゃんと防御魔法も張っていたのに。
ちゃんと学んできたのに。
どうしてこんなたいしたことなさそうな女教師なんかに——負けるの?
あふれそうになる感情をこらえているのか、もらしてしまっているのか分からにないほど、口の中がしょっぱかった。
「おそらく幼い頃から期待され、それなりの研鑽を積み、結果も出してきたのでしょう。ですが、それだけでは足りませんよ」
すずしい声が私の耳を突き刺します。
(またお説教か)
家族と親戚からの期待という名の圧力。
グレイスの名は重くて息苦しかった。
まとわりつく、まわりからの媚と妬み。
大抵の連中はすぐにお嬢様だの、エリート家系だの、楽ばかりしてずるいだの。苦労が足りないだの。
貧乏人のやっかみなんてうんざりだ。
爪が食いこむほどこぶしをにぎっていた。
「せっかく恵まれた環境にいるのですから、最大限利用して自身を磨いたほうがトクですよ。あなたのような立場の人は、いろいろ足を引っ張ろうとする人間が多すぎて大変だとは思いますが、あなたは魔力も技術も才覚があるので、もっと強くなっていいんですよ」
鎖でがんじがらめになっていた心が、ふっと解放されたような気分でした。
アリスタ先生は、そのご自身の魔法技術を持って私の慢心を叱ってくださり、導くお言葉もかけてくださったのです。
実技試験では無残な結果でしたが、アリスタ先生が学校側にかけあってくださり、無事入学することができました。
在学中はアリスタ先生が担当される授業はすべて受講し、あますところなくアリスタ先生とのお時間をごいっしょいたしました。
ああ、こうして思い出すだけでも、胸がきゅーんといたしますわ~。
アリスタ先生・・・・・・。
アリスタ先生のご指導のおかげで成績は常にトップ3でしたし、もちろん卒業生総代をつとめましたわ。
といいたいところですが、おまけのふたりがしゃしゃり出てきたせいで、前代未聞の卒業生総代が三人という結果になりました。
でも、アリスタ先生の一番弟子が私であることは曲げようのない事実ですわ。
検察部門トップとして、アリスタ先生に害をなす者はかたっぱしから片づけておりますもの。
本来、警察絡みの事件以外に検察部門は関与しませんが、アリスタ先生に手を出す輩は、叩けば埃の出る連中ばかりですからね。
アリスタ先生は一教師という立場におさまる器ではありません。
アリスタ先生が脅威となるため、つぶしにかかる者が多いんです。
そんな害虫どもを駆逐するために、魔法省の検察部門に入ったんですから。
ところで、あのくそ生意気なガキがアリスタ先生のまわりをうろちょろしているのが目障りです。
卒業さえしていなければあんなクソガキ一発で・・・・・・。
いつもなら、たかだか、ほうきで空を飛べないくらいのことで因縁をつけてくる連中なんて即有罪にしてやっていましたのに‼
"教え子とふしだらな関係"だなんて、事実無根もはなはだしいですわ‼
あのクソガキ、アリスタ先生とひとつ屋根の下(訳注:校舎です。)にいるからって調子に乗るんじゃありませんわよッッ‼
むしろアリスタ先生をお慕いしない生徒なんて存在しません‼
大前提として一番弟子である私が相手であるべきです。
事の発端があのクソガキなら、今回の発案もあのクソガキ。
あのくそ生意気なガキの提案に乗るのはかなり不本意ですが、これもアリスタ先生を雑魚どもから守るため。
いたしかたありません。
ジンと天雀に先をこされるわけにもいきませんわ。
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