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夏のある夜のことだった。良亜(よしあ)は友達と夏祭りの縁日に遊びに来ていた。境内には金魚すくいや綿菓子屋、香ばしいトウモロコシに塗られた醤油が焼ける匂いが立ちこめ、彼らの心をワクワクさせた。大きく設えたお化け屋敷の表には、おどろおどろしい絵が描かれていて、人を呼び込んでいるのに、まるで人を寄せ付けない、そんな不思議な様相が漂っていた。
「おい、オマエ、何買った?。」
友人が良亜にたずねた。
「お小遣いちょっとしか貰ってないから、まだ何も。」
色んな誘惑する食べ物屋オモチャが並ぶ露店に目を奪われながらも、良亜は本当に欲しい物だけを買おうと、そう決めて、今日は家から出て来たのだった。友達は、パイナップルや唐揚げを頬張っていたが、良亜はまだ何を買うか決めかねていた。そして、
「おい、もういい加減、何か買えよな。」
そう友達に催促されるも、良亜はまだ本当に欲しい物に出会ってなかった。と、縁日の賑わいから少し離れた鎮守の森付近に、何故か一軒だけ離れて露店を開いている所があった。
「何だろう・・。」
不思議に思った良亜は、青白く奇妙に光るその露店に歩み寄った。其処には電気は引かれておらず、カンテラが異様に眩しく品物を照らしていた。そして、
「いらっしゃい。」
赤い敷物の上に並べられた商品の向こう側から、白い髭を蓄えた老人が声をかけてきた。
「あの・・、これ、何ですか?。」
良亜は老人にたずねた。
「ん?、見りゃ解るじゃろ。石じゃよ。」
其処には、原石から荒々しく削り出されたような、オパールやアメジストの如く輝く石が、無造作に並べられていた。普通に電灯に照らされていたなら、良亜も気には留めなかったかも知れないが、その石は、まるで自身の存在をアピールするかのように、カンテラの光を反射して輝いていた。
「気に入ったのがあったかね?。」
老人がそうたずねると、良亜は右の端の方にある、淡く青色に輝く石が目に止まった。そして、
「あの、これ、いくら?。」
値段も書かれずに並べられていた石など、高くて変えるはずも無いと思っていた良亜だったが、
「いくら持っとるんじゃ?。」
老人にたずねられるがままに、彼はポケットから持って来たお小遣いをポケットから取りだして、老人に示した。
「よかろう。それと引き換えに、この石を持っていくがいい。」
そういうと、老人は良亜からお金を受け取ると、淡く青色に輝く石を彼に手渡した。
「有り難う。」
そういって、良亜は石をポケットに仕舞って立ち去ろうとしたとき、
「ああ、待て待て。今その石を、ポケットに入れたな?。」
老人はそういいながら、良亜を呼び止めた。彼は振り向きながら、
「・・うん。」
と答えた。
「その石はな、人の夢を叶える石じゃ。何か夢見るものを頭に描いて、ポケットに手入れて石を握る。そして、そっと手を取り出したら、手の平を開いてみるがいい。其処には砂が握られているはずじゃ。それを地面に撒いたとき、オマエの夢は叶う。」
そういうと、老人はカンテラの光を調節しながら、元の位置に座った。老人の語り口調が頭から離れずにボーッとしたまま、良亜は境内の方に戻ろうとした。
「あ、いたいた。オマエ、何処いってたんだよ?。」
友人達は、一人逸れた良亜を探していたらしかった。
「あっち。不思議な石屋さんがあったから・・。」
「石屋?。」
良亜の言葉に、友人達も興味を示した。そして、彼の元を離れて、友人達は例の不思議な石屋まで駆けていった。数分後、友人達が戻って来ると、
「何だ?、あの爺さん。変な感じだったよな。石で夢が叶うだってよ。そんな訳あるはず無えじゃないか。」
「ホント。馬鹿みたい。」
そういいながらも、友人達はお小遣いでそれぞれ石を一つずつ買ったらしかった。そして、夜も遅くなり、
「じゃあなー。」
「バイバーイ。」
と、良亜と友人達はそれぞれ家路に就いた。一人夜道を歩きながら、
「夢の叶う石かあ・・。」
そう呟きながら、良亜はポケットに手を入れた。そして、さっき買った石が手に触れると、あの老人は本当にいて、自身が本当に石を買ったことを再確認した。
「ただいまー。」
「遅かったわね。」
家に帰った良亜を、母親が出迎えた。
「お祭り、楽しかった?。」
「うん。」
「何か買った?。」
「・・うん。お菓子とか、買って食べた。」
「そう。」
良亜は、何故か、今日の全財産を使って、あの不思議な石を買ったことを、母親にいい出せずにいた。変なものを買ったと、母親に諫められるかも知れないという気持ちもあったが、何より、今日の事は自分と老人二人だけの秘密のように思えて仕方無かったからだった。そして、晩ごはんを食べた後、良亜は寝間着に着替えてベッドに横になると、掛けてあるズボンの右ポケットの膨らみを眺めた。あの不思議な淡い青色の輝きを見たいという気持ちと、しかし、夢を描いていないのに、それを取り出すのはマズいのではという気持ちが心の中で鬩ぎ合っていた。
翌朝、良亜が学校に向かう途中、同級生達が通りすがりに、機能の縁日のことを話しているのを耳にした。
「楽しかったね?。お祭り。」
「うん。綿菓子食べたら、口の周りばベトベトになっちゃった。」
「そりゃ、材料が砂糖だもん。」
「え!、そうなんだ。」
「なーんだ。知らなかったの?。」
そんな、他愛も無い話をしている女の子もいれば、
「オレ、お化け屋敷入ったんだぜ。」
「へー。怖くなかったの?。」
「怖いもんか。お化けなんている訳無いし、彼処のお化け、人が扮装してるんだぜ。狼男の手なんか、肘から上が普通に人間の地肌だったしな。」
「何だ、それ!。」
と、ネタばらしをしながら、喜んでいる男の子達もいた。そして、良亜が教室に着くと、
「おはよう。」
と、いつものように挨拶をした。しかし、先に来ていた友人達は、何やら顔を寄せ合って、話し込んでいる様子だった。
「あの、森の入り口の爺さんの店、見た?。」
「見た見た。変な爺さんが石並べてた、あれだろ?。」
「何か不気味だったよなー。」
「あんなんじゃ、石なんて売れる訳無いのにな。」
「しかも、夢が叶うだなんて、子供騙しもいいとこだよ。」
そんな彼らの話を、良亜は少し離れた所から聞いていた。そして、自分はそのお爺さんから石を買っているし、話の輪に加わるべきでは無いなと、そう思った。と、同時に、自分と同じように石をかった友人達は、まるで買っていなかったかのように、みんなと話題を合わせているのを、得もいえぬ違和感を感じつつ、彼らの背中を眺めていた。それからほど無くして授業が始まると、良亜は先生が語る国語の朗読を聞きながら、右手をポケットに入れて、石が入っているのを確認した。そして、
「夢・・かあ。」
そう心の中で呟きつつ、石を握らずに、手の甲でそっと撫でた。先生は、サーカスの女の子が空中ブランコで三回転をして飛ぶ話をしながら、授業を進めた。
「この女の子は、隣町のサーカスにいたライバルが、三回転半が出来るのを聞いて、とても焦っちゃったんだろうな。」
そういいながら、話の解説をしていた。話では、その女の子はその後、奇妙な老婆と出会い、四回転しながらジャンプ出来るように魔法をかけてくれることで、結局四回転に成功するという内容だった。
「しかし、結局、女の子はその成功と引き換えに、いなくなっちゃうんだよな。どうしてだと思う?。」
先生はそういいながら、生徒達に問いかけた。すると、
「そりゃ、欲をかいたからだよ。」
と、昨日一緒に縁日にいった友人が、手も挙げずにそう答えた。
「欲って、四回転したいってことがか?。」
「うん。」
友人は、得意げに自身なりの解釈を説明した。
「なるほどな。じゃあ、四回転が出来るんだったら、この女の子みたいになってもいいと思う人は?。」
そういいながら、先生は再び生徒にたずねた。しかし、話の内容がピンと来なかったのか、あるいは国語の授業がつまらないと感じていたのか、そんな風に思う生徒は、いないようだった。しかし、良亜は、
「夢が叶うんだったら、それでもいいんじゃ無いかな・・。」
そう思いつつ、実は密かに手を挙げようと、そう考えていた。しかし、ポケットに入れた右手を出せずにいた。
その日以降も、良亜はズボンのポケットに石を偲ばせて、来る日も来る日も学校にそれを持っていっては、ポケットに右手を入れつつ、手の甲でそれを撫でていた。琵琶の種ほどの小さな石だったので、決して邪魔には鳴らなかったが、存在を忘れないほどの大きさではあった。日常は友達と喋ったり、学校帰りに、みんなで駄菓子屋で買い食いをしたりと、極めて普通な日々を送っていたが、頭がボーッとなるような授業中や、寝る前の僅かな時間になると、良亜は常に石の存在と、お爺さんのことを思い出していた。そして、
「夢・・かあ。」
そう呟きながら、まだ件の石に頼ってまで叶えるほどの夢を描けていない自身を省みつつ、いつしかデッカい夢を描けるようになろうと、そんな風に考えていた。そして、近所の塾に通っている時も、良亜は相変わらずポケットに石を偲ばせて、授業を聞きつつも、時折、右手の甲で石を撫でていた。すると、
「おい!、良亜。オマエ、何ボーッとしてるんだ。」
と、講師が近づいて来て、クルッと丸めたテキストで頭を軽くポカリと叩くこともしばしばだった。良亜は決まって照れ笑いをし、周囲の友人達はクスクスと笑った。しかし、一人の生徒だけが、何故か浮かない顔をしていた。授業が終わって、その帰り道、
「なあ、良亜。オマエ、何処の学校にいきたい?。」
先ほど浮かない顔をしていた友人がたずねた。
「うーん、別に、何も。いけたら何処でもいいよ。」
良亜が暢気にそういうと、
「いいよなー、オマエは。オレなんか、例のS高校にいけって、親がうるさくてさ・・。」
そういいながら、相変わらず浮かない顔をしていた。先日の定期テストでも、塾の模試でも、どうやら思うような点が採れなかったようだった。
高級住宅街が立ち並ぶ、なだらかな坂の中腹にあるその高校は、かなりの成績上位者が集う、人気校だった。お洒落で、校門の前を楽しそうに晴れやかな顔でいき交う、誰もが憧れる高校だった。良亜も自転車でその前を通った時、
「雰囲気のいい学校だなあ。」
と、そう感じてはいたが、今の自分の成績では、とても其処にはいけそうに無いと悟ると、そのまま坂を下って自転車を滑らせていった。そして、その日の晩に、良亜はベッドに横たわりながら、いつものように石の入ったズボンのポケットを眺めていた。
「石に願えば、あの学校にもいけるのかなあ・・。」
と、そんな風に思いながらも、
「それはボクの夢じゃ無いな。」
と、いきたいと願う学校へは、自分で頑張っていくものだと思いつつ、良亜は眠りに就いた。
季節は流れ、良亜も友人も受験生になっていた。良亜は校舎の木々が枯れ葉を落としているのを眺めながら、相変わらず右手をポケットに入れては、手の甲で石を撫でていた。そして、
「もう、こんなことやってるの、ボクだけかもな・・。」
そう思いながら、自身の夢を、まだ描けないままでいた。そして、昼休みになると、
「よう。」
と、廊下で窓から外を眺めている良亜に、友人が声を掛けてきた。
「何?。」
「オレ、やっぱりS高校受けることにした。」
友人は決意に満ちた目で外を眺めながら、良亜に語った。
「そう。凄いじゃん。」
「まあ、賭けだけどな。成績もギリギリだし。でも、やれるだけのことはやったから。」
そういうと、友人は教室に戻って、休み時間だというのに、英語の単語問題集を開いて勉強を始めた。すると、良亜は友人の元に歩み寄ると、
「ねえ。昔、縁日で買った、石のこと覚えてる?。」
良亜は友人にたずねた。友人は最初、不思議そうな顔をしていたが、何かを思い出したらしく、
「・・ああ、あれか。」
間を置いて、そう答えた。
「そんなにS高校にいくのが夢なら、あの石にお願いすれば?。」
良亜は気を利かせて、そういったつもりだった。しかし、
「オマエ、気は確かか?。あんなの迷信に決まってるだろ。そんなんで夢が叶うはず無いじゃないか。」
友人は少し怒ったような様子で、良亜の顔の前に問題集を掲げると、それ以上話しかけるなといわんばかりに勉強を再開した。そして、少し悲しげな表情になりながら、良亜は再び廊下に出ると、木々の向こうに見える冬の寒空を眺めていた。
それから数週間が過ぎ、みんなは受験勉強モード一色になっていった。自習時間でも、以前のように雑談をしたりトランプをしたりする生徒もいなくなり、それぞれが過去問に取り組んだり、互いに問題集から歴史や英単語の問題を出し合って、一問一答で答え合ったりと、そんな風に過ごすことが受験生であるという同じ服を、みんなが来ているような、そんな雰囲気に教室がなっていた。しかし、良亜はそんな中には加わらずに、一人で学校から持たされていたいつもの問題集のやり残しを少しずつ解きながらも、
「夢・・かあ。」
と、ポツリと呟いては、また問題を解くといった作業を繰り返していた。そして、それから程なくして、受験の日がやって来た。風邪は首からひくという諺を信じているかのように、誰もが襟巻きをしながら、試験会場に向かった。そして、会場に到着すると、誰もが問題集を広げて、最後の最後まで気を抜くまいと、真剣な表情で開始時刻を待っていた。所が、
「わあ。やっぱ、ストーブは温かいなあ。」
良亜だけは席から離れると、ストーブに手をかざして、その温もりを確かめていた。その様子を、後ろから哀れな眼差しで見つめる受験生もいたらしかったが、良亜は全く気にも留めなかった。そして、試験開始のチャイムが鳴ると、係官が現れて、問題用紙を配った後、不正が無いように目を光らせていた。誰もが緊張感でいっぱいであろう教室内を、良亜一人だけがポケットに手を入れながら、右手の甲で石を撫でていた。そして、朝から始まった試験は、夕方には全ての科目が終わり、みんなは一喜一憂しながら、会場を後にした。良亜は自分なりには、日頃の成果を出せたかなと思っていた。そして、
「帰りに駄菓子屋で、何か買って食べよっと。」
そう思いながら、自転車を飛ばして駄菓子屋に向かった。流石に試験で疲れた受験生は、今日は来ないだろうと、良亜はそう思っていた。ところが、
「よっ!。」
と、S高校を受験した友人が、先乗りしていた。
「あれ?、来てたんだ。」
「うん。」
友人はそういうと、ニコニコ顔で駄菓子を買い込んでは、それを椅子の上に広げて、片っ端から頬張っていた。
「豪勢だなー。」
「はは。試験で疲れたからな。栄養補給さ。それに、もう、受験する心配も無いしな。」
今まで我慢していたものを、一気に取り戻すべく、友人は駄菓子を食べ続け、一緒に買ったジュースでそれを流し込んでいた。その横で、良亜は僅かにミルクせんべいだけを買うと、練乳を味わいつつ、一人微笑んでいた。
それから一週間ほどしたある日、みんなの元に試験結果が届いた。良亜は郵便受けに見慣れない大きな封筒が投函されているのを見て、
「何だろ?、これ・・。」
そういいながら、母親の元にそれを持っていった。すると、
「ちょっと貸して!。」
母親はそれを奪うように良亜から受け取ると、持っていたハサミで封を開けて、中身を引っ張り出した。そして、
「良かったーっ!。受かってたわよ!。」
と、母親は良亜を抱きしめた。それは、合格通知だった。自分はいつも通りに、普通のことをやっただけなのにと思っていたが、母親の喜びぶりに、何かいいことをしたのかなと、次第に実感が湧いてきた。そして、学校に試験結果を伝えにいこうと、服を着替えて登校した。すると、
「ピーポーピーポー。」
「ウーッ、ウーッ。」
と、何やら救急車やパトカーがけたたましくサイレンを鳴らしながら通り過ぎていった。それを見ながら、良亜も何事かと思いつつも、取り敢えずは学校にいった。ところが、
「先生、速く!。」
「解った!。」
と、良亜が門を潜る前に、担任の先生や他数名が、門から駆け出していった。流石に異様な雰囲気を察した良亜だったが、誰も立ち止まらなかったので、何の事情も聞けずにいた。そして、ようやく一人の同級生とすれ違ったとき、
「あの、何があったの?。」
良亜はたずねた。すると、
「知らないのか?。アイツが事故に・・、」
そういうと、その同級生も走っていった。仕方無く教室に入ると、何人かの生徒が残っていた。気になっていた良亜は、彼らに事情をたずねた。そして、ようやく、良亜は話を聞くことが出来た。S高校を受けた友人が、合格通知を手にしながら、事故に遭ったとのことだった。良亜の心はザワついた。何か解らないが、無性にザラザラした感触が、胸を、そして頭を駆け巡った。それから程なくして、担任が沈痛な面持ちで、一緒に出ていった生徒達と戻って来た。そして、
「え、大切な話があります・・。」
そういいながら、担任は友人の訃報をみんなに伝えた。良亜は頭の中がボーッとなったまま、担任の言葉を聞くとは無しに聞いていた。そして、一緒にS校を受験した生徒が小声で、
「アイツ、駄目かもとかいってたけど、ポケットから青い砂みたいなのを撮りだした途端、急に問題が出来たっていってたな・・。」
と、別の生徒に試験会場での彼の様子を語っていた。その言葉を聞いて、良亜は右手をポケットに入れるのを止めた。
卒業前の悲しい出来事は、みんなに少なからず動揺をもたらした。良亜も自身の身の丈に合った受験を淡々としただけだと思ってはいたが、それほどまでに、受験というものが重く、そして残酷なものなのかと、そういう思いが消え去るまでには、随分と時間を要した。
それから数ヶ月が経った、ある夏の日、新しい高校生活も夏休みに差し掛かろうとしていた。不慣れながらも、何とか友達も出来、相変わらず駄菓子屋で買い食いをしている良亜だったが、ある日を心待ちにしていた。そして、その日がついにやって来た。夏祭りの夜、良亜はあの日の時と同じように、境内の縁日の喧噪をくぐり抜けると、鎮守の森付近までやって来た。そして、其処には、あの日と同じように、カンテラの灯った露店がポツンと佇んでいた。良亜は赤い敷物の上に石が並べられている、その向こうに白髭の老人が座っているのを確認すると、ポケットから石を取りだした。老人は、何事かと思い、良亜の顔を見上げた。そして、
「お爺さん。この石って、人の寿命と引き換えに、夢を叶えるんだね。」
と、良亜は真っ直ぐに老人を見つめながら、そういった。
「ああ、そうだよ。夢とは儚いもの。人の力ではとても叶わぬ。だからワシが、その夢が叶うべく、手助けをしておるのじゃ。」
それを聞いた良亜は、キッと目を見開いて、
「じゃあ、今から僕が夢を叶えるべく、お爺さんに消えてもらうよう思い描くけど、いい?。それとも、何もいわず、これを受け取って、此処から立ち去ってもらうのと、どっちがいい?。」
右手の上に置いた青く光る石を老人に差し出しつつ、良亜は詰め寄った。すると、額に汗をかきつつ、老人は震えた声で、
「わ、解った・・。」
そういうと、良亜から石を受け取って、その場に座り込んだ。そして、深い溜息を吐いた。その業に満ちた息遣いを聞きながら、良亜は振り向きもせず、カンテラの灯る露店を後にした。そして、再び喧噪の元に辿り着いた時、良亜はようやく、後ろを振り返ってみた。しかし、鎮守の森は黒々と木の陰を落としているだけで、辺りには何の明かりも見えなかった。そして、良亜はすぐ側にあるミルクせんべいの露店で、当たれば枚数が増えるクジを引くと、
「外れ・・か。ま、いいや。」
そういいながら、残念賞の僅かなミルクせんべいだけを手にすると、それをしみじみと味わいつつ、歩いていった。
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