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…眩しい。
目に光が差し込んでくる。
あぁ、また世界が平和じゃなくなったんだね。
僕はゆっくり目を開けた。
大きな青空の下の原っぱ。
僕はそこに落とされた。
でも、前回とは違って、明るい。小鳥もさえずってる。
というか、暑い。とにかく、暑い。
今の季節が夏なら普通だけど…
これが冬なら、平和じゃなくなる前兆だ。
今回は、随分と早く落とされたのかな。
町が近くに見える。
そこにいる人に聞いてみようかな。
僕はオトシゴ特有の白い髪をフードで隠し、町に向かって歩いていった。
この街、人がたくさんいるな…
フード、取れないように気をつけないと。
そう、頭の中で独り言をつぶやきながら街を探検する。
その時だった。
「…。…?」
頭部の部分が真っ黒な靄に包まれていて、顔が見えない人間が僕の視界に映る。いや、そもそも人間かどうか定かではない。人の形を取った化け物、という可能性も大いにある。
このあたりは家が並んでいて、人は先程よりごった返したような量ではない。
家族連れなどが楽しそうに笑いながら僕のとなりをすれ違う。
思わず固まって黒いヒト?を見ていた。が、相手に気づかれてしまったようだ。
しまった。早くここから立ち去らないと。
得体のしれないものと関わってもろくなことにはならない。
でも、人生とはそううまくはいかないようで、黒いヒトがこちらに歩みを進めてくる。
僕は気づかないふりをして、さらに歩みを早める。
「ねぇっ、そこのフードの女の子!」
ついに声をかけられてしまった。
女の子と呼ばれるとは心外だ。失礼だな。
声は思ったよりも高く、好青年といったような感じだ。それに、妙に落ち着く声をしている。
「…なんですか。」
流石に無視をするのは無理がある。ここらでフードを被っているのは僕だけだ。
「君、どこから来たの?お名前は?」
「…急になんですか。知らない人にそうほいほい名乗るわけがないでしょう。」
とことん怪しい男だ。さては人を騙して連れ去って食うタイプの魔物なのか?
何にしろ、今すぐにでもこの場を立ち去りたい。
周りの女性の目がとても痛い。こいつの顔は男前なのか?知らないが…
声から想像するにかなり顔が良さそうだ。ただの偏見だけど…
「…じゃあ、一つだけ聞いてもいいかな?」
「うん、まぁ。」
名前聞いてきたから一つじゃないじゃん。ほんとにこの空間はいたたまれない。
気づけば少し離れたところに男性も女性も集まって、僕の眼の前の男を顔見している。
はやく、早く開放して…!
「君はどうして顔が見えないの?」
…へ?
「なんか、こう、顔に黒いモヤがかかってるような…」
「え、」
ってことは、つまり、
お互い、顔が見えてない?
「それを言えば、あなただって、」
「え?」
どうしてだろう。僕たちだけ、お互いの顔が見えていない。
世界がそうさせたのだろうか。
「よー、ルイス!えらいかわええ嬢ちゃん捕まえて、ナンパか?」
「カイジ。違いますよ…カイジにはこのお嬢さんの顔が見えているのか?」
ルイス…ルイと名前が似てる。あぁ、だめだ。思い出しちゃいけない。
もう、ルイには会えないから…
「はぁ?見えてるも何も、もうほんまに光ってるんかっちゅうくらいのきれいなパーツがぽんぽんと…」
「そうですか。もういいです。どこか行ってください。」
「はぁ?ほんまあんたなぁ――」
「あの、先程から女の子やらお嬢さんやら言ってますが、えと、僕男なんです。」
カイジと呼ばれた男はもう倒れるんじゃないかってくらい驚いて固まっている。本当に失礼な…
ルイスと呼ばれた男はそう驚いたような様子ではない。
「そうだったのか。すまない、顔が見えないものでな…勝手に体系で決めつけてしまった。」
「ちょちょ、ちょいまてぇ、お、おお、男やと?女でもおらんくらいの綺麗な顔してんのにか?あとあんたはあんたで顔見えへんってなんやねん!」
…いちいち、声がでかい人だ。しかも失礼だ。男とか女とか関係ないでしょ、そこは!
「はぁ…わからないから声をかけたんでしょう。なんだか、顔に黒いもやのようなものがかかっていて見えないんだ。」
「そ〜かそーか、あんたにはせっかくこんなきれいな顔が見えてへんっちゅうことやな?いやー、俺、得したわー。」
ルイスさんはもう、呆れて疲れた様子だ。
「そうだ君、何か用事があったりしなかったですか?急に引き止めてしまったもので、」
「いえ、特に用事などはなく街を探検してみようかと。そうだ、あなたの名前は聞いてしまったのに僕の名前を教えないのはあれなので名乗ります。僕はスイセイ。前はスイと呼ばれていました。」
ルイスさんが息を呑む音が聞こえる。
もしかして、僕のこと知って、
「スイセイ…スイ…どちらも聞いたような気が…あぁ、破滅のスイセイ。」
は、破滅の…?
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