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 ある教授と農家は仲がいい。ふたりとも気球愛好会に所属していて、ふたりとも片目が義眼だった。そんなふたりは片方が先に亡くなったなら、目を残ったほうに渡す約束をしていた。あるとき、農家が亡くなったとの知らせが入る。教授は現場に急行して目をうばった。それを移植する。完全な体を手に入れた。そうよろこんだのもつかの間、じつは農家は生きていた。仮死状態にあったのを死んだと勘ちがいしたのだ。教授は農家に会いに行く。当然目を返せ、盗人がといわれる。教授は目を返した。これ以来ふたりは仲が悪くなり、顔を合わせることもなかった。しばらくの時間がたって農家から手紙が届いた。農家がほんとうに亡くなったらしい。約束だからと目を送ってくる。教授はそれを律義に移植した。移植の数日後、農家から二通目の手紙が届いた。目を盗んだこと、許していない。わたしは血液の病気で死んだ。わたしの目を移植したきみも同じ運命をたどるだろう。  義眼のふたりを描いた作品でした。おそろしいオチですね。
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