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 ある男性の妻が陶芸教室で知りあった女性がいる。夫婦そろってその女性の家での食事に誘われた。女性には夫がいて金持ちだった。男性とは住んでいる世界がちがうほどの富豪だ。そんな富豪の家には変わった生きものがいた。豚だ。富豪夫婦が愛情をもって飼っている。だが、心臓に病気を抱えているらしく調子が悪そうだ。富豪夫婦には子どもがいないが、彼らの家には少年がひとりいた。浮浪児を最近拾って、世話をしているらしい。豪華な家だったが、ふしぎなところが目につく。それからも男性と妻は富豪夫婦と何回か食事をともにした。あるとき、富豪夫婦の家に招かれた男性と妻は夫妻から子豚をもらった。人工授精をして生まれた豚だという。もし、飼っている豚がなくなったときのために遺伝子の一部でも残したかったからだ。だが、夫婦の家には豚がいた。それも以前より元気になっている。代わりに少年のすがたが消えていた。夫婦はいう。あの少年の心臓を使ったのだ。男性がほかの豚をどうして使わなかったのですと聞くと、豚がかわいそうではないかと返ってきた。男性と妻は二度と富豪夫婦と会うことはなかった。  人間より豚を愛する夫妻の話でした。現実にもこういうひとはけっこういるでしょうね。
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