1/1
前へ
/171ページ
次へ

 ある兵士、偵察のために前線へ行く。廃墟同然の建物に入ったところで運悪く敵の砲弾が飛んできた。兵士は家屋の下敷きになる。体が動かせない。かろうじて手がすこし動くくらいだ。さらに兵士はおそろしい事態に気がついた。持っていた銃が銃口をこちらに向けている。安全装置を外していたのでいつ発砲してもおかしくない。兵士は脱出しようと考えた。がれきをどかそうとするが、むりだった。銃口がこちらを向いている。建物が崩れたときに負傷したのだろう。手に血の感触がする。ねずみがやってきた。銃の周りをうろつく。あわてて追いはらう。心労のあまり気が遠くなる。気を失っていたらしい。目を覚ましても銃は兵士を向いている。兵士の手が角材をつかんだ。これで銃をどかせないか。手を伸ばす。だが、手が滑って銃の引き金にあたってしまう。銃は弾を発射しなかったが、その役目を十分に果たした。  兵士の同僚が兵士と同じく前線に向かっていた。前方から家の崩れる音が聞こえた。同僚はさらに前進して倒壊した家を見つける。音を聞いてから二十分ほどたっていた。男が死んでいた。その死体を見て同僚が口にする。死後一週間といったところか。  兵士が死の恐怖と長く戦っていたと思ったら、じつは短い時間のできごとだたという話です。同僚が死後間もない死体を一週間前に死んだと勘ちがいするほどでした。死と格闘する兵士の描写が真に迫っていました。
/171ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加