周囲の視線

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周囲の視線

朝になった。 ガンちゃんに決意表明したとはいえ、いざ、学校に行く準備を始めたら心がぎゅーっと苦しくなってきた。 _____まただ…… レイラとのデートが楽しくてうれしくてすっかり忘れていたがフラッシュバックする。 「僕はやってない!誤解だ!」 誰もいない部屋で、誰に言うともなく声に出す。スマホ画面を埋め尽くした、僕を蔑んだり非難したりを繰り返す文言を思い出す………ん? 「あれ?」 書き連ねられた誹謗中傷は、なんとなくしか思い出せなくなっていた。当時は…といっても数週間前だけど、あんなに僕の心を抉ったのに。 _____そっか、ガンちゃんのせいだ あの夜、強制的にスマホの中身を変えられてから、SNSやニュースサイトもLINEも見えなくなっていたから、余計なモノを見ずに済んだから記憶も薄れてきたんだ。 それがわかったら、さっきまでの苦しい気持ちが和らいできた。 _____よし!行ける! 気持ちを切り替えて、歯を磨き髭を剃り髪を整えて、レイラが見立ててくれた服を着て、鏡を見た。 「よし!僕は大丈夫だ。やってないんだから堂々としてればいい、それに、人の噂なんてすぐになくなるだろうし」 出がけにレイラにメッセージを送った。 〈おはようございます。仕事に行ってきます〉 スマホが震えて、すぐにレイラの返信が届いたことを知らせる。 《おっはよー♪応援してるからね、ふーみん!》 僕は一人じゃない、マッチングアプリの相手だとしても今はひとりぼっちじゃない。 ドアを開けて、勤め先の高校に向かった。だんだんと校舎が近くなり、登校する生徒とも道すがら一緒になる。 副担任とはいえ、受け持ちクラスの生徒はおぼえているから、僕の姿を見て何やら言い合っているのがわかる。 _____下を向くな、前を向いて、しっかり歩け 自分を鼓舞して歩いた。 教員室に入り、担任やその他の先生たちに長期で休んでしまったことを、お詫びしてまわった。 「坂井先生、もう体調はすっかり良くなったんですよね?」 学年主任が、僕を観察するように上から下まで何度も見て言った。 「はい、ご迷惑をおかけしました。しっかりと治したので、今日からまたよろしくお願いします」 深々と頭を下げる。 「生徒たちはもう落ち着いてるとは思うんですが、その……」 また何か言われたり、騒いだりするんじゃないかと危惧しているのだろう。 「もう大丈夫なので」 それだけ言うと、自分の席についた。久しぶりの教員室は、というか学校はなんだかとてもザワザワしている。こんなに落ち着かない場所だったっけ? 廊下に出れば、スマホをこちらに向けてくる子もいて、思わず身構えてしまう。 でも、何を言われてもそれは僕にはわからない。今になってスマホからアプリを削除してくれたガンちゃんに感謝した。 わからなければ、気にもならない。
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