ラストデート

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お金は便利だけど、人の心までは買えない。そんなことわかりきってたはずなのに、僕はいつからそんなことも忘れていたんだろうか。 「金ってのはな、テメェの命の代償なんだよ、わかるか?」 「え?あ、どういうこと?」 「ちっ!そんなこともわかんねぇのかよ。あのな、普通は働いて金を稼ぐだろ?働くってのはテメェの時間を相手に提供するってことだ。時間ってのはよ、それぞれ限りがある命の一部だろ?」 なんとなくだが、ガンちゃんが言いたいことはわかる。 僕はだまってうなずいた。 「だからよ、って時には惜しみなく使えばいい。だけどそれは心を通わせてからでないと意味がねぇんだよ」 「……うん」 「金と命は似ているが、かといってそれで人の心は買えないぞ。“この命をあげるから愛してください”って言われても、心は動かない。心には心で対応しないとな」 しないとな、と言いながら親指を立てて『いいこと言っただろ?』と言いたげなガンちゃん、を後ろから引っ張って入れ替わって僕の前に立ったレイラ。 「ごちゃごちゃうるさいわね。とにかくこうしてる間にもその大事な時間とやらが減っていくわけよ。どうするの?デートするの?しないの?」 レイラが指差した先には大きなデジタル時計があって、ここに来てから30分が過ぎていたことがわかった。 「あーっ、もったいない!デートします!最後なら……えっと、レイラが楽しいと思えるデートを」 「私が?」 「うん、レイラのこと教えて。何が好き?何がしたい?」 「えっとねぇ……鬼ごっことか?」 「わかった、じゃあ、鬼は……」 「コイツ!」 「ガンちゃん!」 僕とレイラは同時にガンちゃんを指差した。 「ちょっ、俺の話は聞いてなかったのかよ」 「10数えてからよ、鬼が動き出すのは。わかった?」 「わーったよ。しかたねぇな」 「行くわよ、ふーみん!」 レイラはそう言うと、僕の腕を掴んで街外れの大きな川の河川敷を目指して走り出した。 すれ違う人たちが何事かと振り返ったけど、僕は気にせず、レイラよりも早く走ってレイラの手を引いた。 「きゅう、じゅう!!!行くぞーっ」 遠くの方からガンちゃんの声が聞こえた。 「急がないと捕まっちゃうよ」 「わかってるって」 僕はレイラと二人、懸命に走った。 土手に着いたら、川面からの風が心地よく頬を滑っていった。
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