100人が本棚に入れています
本棚に追加
復職してからの毎日は、休職する前とはまったく違った。僕自身は、相変わらず虫が好きだし授業以外のことを話すのは苦手だし、そんなに変わった自覚はなかったけれど。
「せーんせー、休んでる間何してたんですか?」
話しかけてくる生徒の態度も、以前のような僕を小馬鹿にした雰囲気は消えていて、距離が近くなったみたいだ。
「いや、まぁ、体調が戻るまでは家でゆっくりしてたよ」
本当は心底追い詰められて、あの日、ビルから飛び降りようとしてたことは、内緒だ。あのことは、今となってはまるでドラマのように、他人事に感じていた。
「レイラとは元々友達なの?」
「え?あ、うん、友達の友達で紹介されてね。で、仲良くなったんだ」
「付き合ってるんじゃないの?」
イタズラっぽい顔で、ほらほら!と脇腹をつついてくる。
「こらこらっ、くすぐったいからやめて。付き合ってないよ、僕なんかとレイラじゃ友達になったのも奇跡なのに」
「うーん、今のせんせーなら、そんなに奇跡じゃないかも?」
_____そうだ、こんなふうに生徒と話がしたかったんだ
こんな教師になりたいと、思い描いていたことを今頃思い出す。生徒から気軽に話しかけられて、授業以外のことでもおしゃべりする、親しみやすい教師になりたかった。
家に帰ると、今日あったことをレイラに報告する。レイラはそんな僕のなんでもない会話にも、きちんと返事をしてくれる。
《元々、嫌われてたりしてなかったんじゃない?ふーみん先生は》
〈いや、嫌われてたというより近寄りがたかったのかもしれないと思う〉
《今はちゃんと近づいてくれるってことか。何が変わったんだろうね?ふーみんの》
〈なんだろ?〉
そこでふと、ガンちゃんが言ってたことが浮かんできた。
_____人は見た目が10割!
〈外見かなぁ?レイラのおかげで少しだけおしゃれにも目覚めたし〉
《それもあるけど、ふーみんの気持ちも外見に出てるのかもね?今は人の目も気にならないでしょ?サイトの書き込みとかも》
言われてみれば、他人に何かを言われていたとしても気にならなくなっていた。
サイトは見れなくなっているから、当たり前と言えば当たり前なのだけど。
_____もし、また何か書きこまれたら?
どうするだろうと想像してみたけれど、自分が間違っていなければ、他人に何か言われても気にする必要はない。実害さえなければ、匿名で無責任なことを書き込むやつなんて、相手にしなくていいと今なら思える。
強引なやり方だったけど、ガンちゃんは僕を救い出してくれて、レイラは僕に“自信”をくれた。
「ガンちゃんにも感謝、かな」
静まり返った部屋に、思った以上に独り言が響いた。そういえば声も大きくなったかも?
最初のコメントを投稿しよう!