周囲の視線

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復職してからの毎日は、休職する前とはまったく違った。僕自身は、相変わらず虫が好きだし授業以外のことを話すのは苦手だし、そんなに変わった自覚はなかったけれど。 「せーんせー、休んでる間何してたんですか?」 話しかけてくる生徒の態度も、以前のような僕を小馬鹿にした雰囲気は消えていて、距離が近くなったみたいだ。 「いや、まぁ、体調が戻るまでは家でゆっくりしてたよ」 本当は心底追い詰められて、あの日、ビルから飛び降りようとしてたことは、内緒だ。あのことは、今となってはまるでドラマのように、他人事に感じていた。 「レイラとは元々友達なの?」 「え?あ、うん、友達の友達で紹介されてね。で、仲良くなったんだ」 「付き合ってるんじゃないの?」 イタズラっぽい顔で、ほらほら!と脇腹をつついてくる。 「こらこらっ、くすぐったいからやめて。付き合ってないよ、僕なんかとレイラじゃ友達になったのも奇跡なのに」 「うーん、今のせんせーなら、そんなに奇跡じゃないかも?」 _____そうだ、こんなふうに生徒と話がしたかったんだ こんな教師になりたいと、思い描いていたことを今頃思い出す。生徒から気軽に話しかけられて、授業以外のことでもおしゃべりする、親しみやすい教師になりたかった。 家に帰ると、今日あったことをレイラに報告する。レイラはそんな僕のなんでもない会話にも、きちんと返事をしてくれる。 《元々、嫌われてたりしてなかったんじゃない?ふーみん先生は》 〈いや、嫌われてたというより近寄りがたかったのかもしれないと思う〉 《今はちゃんと近づいてくれるってことか。何が変わったんだろうね?ふーみんの》 〈なんだろ?〉 そこでふと、ガンちゃんが言ってたことが浮かんできた。 _____人は見た目が10割! 〈外見かなぁ?レイラのおかげで少しだけおしゃれにも目覚めたし〉 《それもあるけど、ふーみんの気持ちも外見に出てるのかもね?今は人の目も気にならないでしょ?サイトの書き込みとかも》 言われてみれば、他人に何かを言われていたとしても気にならなくなっていた。 サイトは見れなくなっているから、当たり前と言えば当たり前なのだけど。 _____もし、また何か書きこまれたら? どうするだろうと想像してみたけれど、自分が間違っていなければ、他人に何か言われても気にする必要はない。実害さえなければ、匿名で無責任なことを書き込むやつなんて、相手にしなくていいと今なら思える。 強引なやり方だったけど、ガンちゃんは僕を救い出してくれて、レイラは僕に“自信”をくれた。 「ガンちゃんにも感謝、かな」 静まり返った部屋に、思った以上に独り言が響いた。そういえば声も大きくなったかも?
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