ラストデート

1/4
前へ
/28ページ
次へ

ラストデート

《ふーみんができる範囲で、とことんおしゃれしてきてね》 そんな、僕にはとてもハードルが高い注文をつけてきたレイラとの待ち合わせは、水族館の近くの駅。目印は、恋人たちがよく使うという時計台……から1番遠いベンチだ。 レイラとのことがWebニュースになってから、あちこちで僕を見る視線を感じる。時にはあからさまにシャッター音がしたりもする。 けれど、そんな時僕は、おそらくとんでもないドヤ顔をしてると想像してる。非難や中傷もあるかもしれないけれど、それはきっと僕のことが羨ましいからだと思うことにしてる。 _____今はレイラのおかげでちょっといい男に見えているかも? なんて自惚れてみたり。 でもこれからは、もっと努力して本物のレイラの恋人になりたい。デート屋なんてアプリの繋がりじゃなくて。 そんなことを言ったら、レイラはどんな顔をするだろうか? ベンチに座って、レイラが来るのを待つ。ワックスとかいうやつで、サイドの髪をまとめてみたけれど、おかしくないかなとお店のガラスに映してみた。 「おう?なんだお前、洒落っ気がついたのか?ただの変態虫オタクだと思ってたのに」 ガラス越しに視界に入ってきたのは、ダブルのアイスクリームを手にしたガンちゃんだった。 「だって、レイラと並ぶには僕はうんと背伸びしないと、釣り合わないから」 「見た目だけじゃなくて、金も必要だぞ、わかってるのか?」 「あ、うん、そうだよね」 そう。 レイラにとって僕とのデートは、モデル業のかたわらの副業でしかない。 「あの、さ……、ガンちゃんってレイラと繋がってるんだよね?」 今までは直接確認したことがない二人の関係を、ここで確かめておきたい。 「あ?実は俺たちできてまーす、とか言われたいか?」 「えっ、それは……」 まさかとは思うけど。 「あっ、イタッ!」 「だーれとだーれができてますって?」 不意にガンちゃんの後から声がした。今日はシックな大人女子と言えそうなレイラが、背伸びしてガンちゃんの耳を引っ張っていた。 「レイラ!」 「お待たせ、ふーみん♪」 レイラは、ガンちゃんの耳から手を離すと僕の左側にまわり左手を取った。 「いったいな、もうっ!」 本気で痛かったのか、顔が赤くなっているガンちゃん。 「あなたがおかしなこと言うからよ」 「まんざら嘘でもないだろ?俺たちがつるんでるのは確かだし」 「それは“できてる”とは言わないの!ってか、なんでガンちゃんがここにいるの?デートの邪魔しにきたの?」 パリパリとアイスのコーンを食べ尽くしたガンちゃんは、パンパンと両手を払うとあらためて僕の前に立ちはだかった。こうして見ると、ホントにガタイがよくて、丸坊主に大きめ真っ黒サングラスがいかにも怖い人に見える。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

100人が本棚に入れています
本棚に追加