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ラストデート
《ふーみんができる範囲で、とことんおしゃれしてきてね》
そんな、僕にはとてもハードルが高い注文をつけてきたレイラとの待ち合わせは、水族館の近くの駅。目印は、恋人たちがよく使うという時計台……から1番遠いベンチだ。
レイラとのことがWebニュースになってから、あちこちで僕を見る視線を感じる。時にはあからさまにシャッター音がしたりもする。
けれど、そんな時僕は、おそらくとんでもないドヤ顔をしてると想像してる。非難や中傷もあるかもしれないけれど、それはきっと僕のことが羨ましいからだと思うことにしてる。
_____今はレイラのおかげでちょっといい男に見えているかも?
なんて自惚れてみたり。
でもこれからは、もっと努力して本物のレイラの恋人になりたい。デート屋なんてアプリの繋がりじゃなくて。
そんなことを言ったら、レイラはどんな顔をするだろうか?
ベンチに座って、レイラが来るのを待つ。ワックスとかいうやつで、サイドの髪をまとめてみたけれど、おかしくないかなとお店のガラスに映してみた。
「おう?なんだお前、洒落っ気がついたのか?ただの変態虫オタクだと思ってたのに」
ガラス越しに視界に入ってきたのは、ダブルのアイスクリームを手にしたガンちゃんだった。
「だって、レイラと並ぶには僕はうんと背伸びしないと、釣り合わないから」
「見た目だけじゃなくて、金も必要だぞ、わかってるのか?」
「あ、うん、そうだよね」
そう。
レイラにとって僕とのデートは、モデル業のかたわらの副業でしかない。
「あの、さ……、ガンちゃんってレイラと繋がってるんだよね?」
今までは直接確認したことがない二人の関係を、ここで確かめておきたい。
「あ?実は俺たちできてまーす、とか言われたいか?」
「えっ、それは……」
まさかとは思うけど。
「あっ、イタッ!」
「だーれとだーれができてますって?」
不意にガンちゃんの後から声がした。今日はシックな大人女子と言えそうなレイラが、背伸びしてガンちゃんの耳を引っ張っていた。
「レイラ!」
「お待たせ、ふーみん♪」
レイラは、ガンちゃんの耳から手を離すと僕の左側にまわり左手を取った。
「いったいな、もうっ!」
本気で痛かったのか、顔が赤くなっているガンちゃん。
「あなたがおかしなこと言うからよ」
「まんざら嘘でもないだろ?俺たちがつるんでるのは確かだし」
「それは“できてる”とは言わないの!ってか、なんでガンちゃんがここにいるの?デートの邪魔しにきたの?」
パリパリとアイスのコーンを食べ尽くしたガンちゃんは、パンパンと両手を払うとあらためて僕の前に立ちはだかった。こうして見ると、ホントにガタイがよくて、丸坊主に大きめ真っ黒サングラスがいかにも怖い人に見える。
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