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始まりは雨の夜
「待てぇっ!コラァ!」
「え、いや、待てません、ごめんなさぁい」
ほとんど街灯もない路地裏。フード付きパーカーにリュックを背負った黒縁メガネの若い男が、坊主頭で黒のライダースーツを着た背の高いイカつい男に追いかけられている。
最寄りの駅から離れていて住宅街も見当たらないこの辺りは、こんな雨の夜にはほとんど人も通らず、助けを求めたくても誰もいない。
走っても走ってもイカつい男は追いかけてきて、諦めてくれそうもなくて泣きそうになる。
____とにかくどこかに隠れないと
角を曲がってすぐにある廃墟のようなビルのドアを開けて、急いで中に入り息を殺した。
____行き過ぎてくれ、お願い!
カツカツカツと靴音がして、ドアの前を影が通り過ぎて行った。しばらくそのままの体勢で外の気配を探る。戻って来てはいないみたいだ。
____やった、逃げ切った!
埃と湿っぽい空気の中で、自分の心臓の音がやけに大きく聞こえて、何度も深く息を吸って呼吸を整えた。背負っていたリュックからスマホとハンカチを取り出し、雨で曇っていたメガネを綺麗に拭く。前髪から滴る水滴も拭き取って、スマホの位置情報を調べた。
「間違いない、ここだ」
さっき立ち寄ったコンビニから出た時、あのデカい男とぶつかったせいで因縁をつけられて追いかけられたけれど、ちゃんと目的地まで辿りついていたようだ。
そっとドアを開けて外を確認したが、さっきのあの男は見当たらない。ゆっくりと外に出ると、裏に回って非常階段から屋上を目指した。
このビルは6階建だ。
____死ぬには十分な高さだ
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