212人が本棚に入れています
本棚に追加
/143ページ
そして…
「本当に何もしない?」と聞き返していた。
押しに弱い私の負けだ。
「行ってくれるの?」
「何もしないって約束するなら」
「分かった、何もしない」
「お金もったいないよ?」
「全然そんなの大丈夫!」
そこまでして私と「ホテルに行きたい」と言ってくれることに喜んでいいのか複雑だ。
きっと好きな子と「そういう関係」になりたいと思うのは、ごく普通のことだろう。でも私たちは付き合っている訳ではない。
体の関係だけを望んでいるのか? 何もしないと言いながら押し倒されてしまったら…。
そんな関係でもいいと割り切れるほど私は経験豊富ではない。むしろ無いに等しい。
私は20才まで男性と付き合ったことがなかった。告白してくれる人はいたが全くタイプではなく断ったことはある…程度だ。
高校時代の友達から、職場の先輩だという10才も年上の男性を紹介され、何度か会ううちに付き合うことになった。
私は初めて彼が出来たことで周りが見えないほどだった。
求められれば応えたい。それまで経験のなかった私は、怖くて恥ずかしくて何度も待ってもらった。
日に日に罪悪感が増していったある日、次に会うときは…と約束をした。
痛くて痛くて泣きながら彼を受け入れた。
彼は優しかったのに、好きより恐怖が勝ってしまった。
会いたいけど…したくない。そんな私の気持ちが伝わったのか、だんだんと彼の心は離れていった。
彼は本気で私を好きだったのだろうか?と今更ながら疑問に思うこともあるが、それは私自身にも同じことが言えるのかもしれない。本当に好きなら我慢できたのではないか…。
今は琢磨の気持ちを私に留めておきたい…
私を好きだと言葉にしてくれれば、受け入れたい…でも、そうじゃない…。
それでも琢磨を信じるしかないと覚悟を決めてホテルに向かった。
最初のコメントを投稿しよう!